読者限定で行ったオンライン講演「まちづくりにスポーツが必要な理由」を6月19日に開催。参加者のお一人、鈴村裕輔さん(名城大学 准教授)が、自身の「研究ブログ」に講演について執筆してくださった(6月20日付)。ご本人の承諾を得て、当サイトに転載する。
(見出しは適宜、当サイトでつけた)

2020年6月22日 文・ 鈴村裕輔(名城大学 准教授)

鈴村裕輔さん(名城大学 准教授)

昨日は、日本時間の21時から23時30分まで、ジャーナリストの高松平藏さんによる講演「まちづくりにスポーツが必要な理由」を聴講しました。

今回はZoomによる遠隔会議方式で行われ、高松さんがドイツのバイエルン州エアランゲン市から日本の参加者に向けてお話をされました。

講演で使用した図表。ドイツのスポーツから抽出できる「機能」。相互に関連性が見いだせる。


講演では、最初に「スポーツの機能」として「余暇」、「インクルージョン」、「社交」、「健康」、「教育」、「郷土愛」を、「スポーツを通して行われていること」として「運動」、「競争」、「気晴らし」、「関与」、「学習」を、「スポーツ活動に含まれる価値」として「相互敬意」、「平等」、「自由」、「連帯」、「寛容」が挙げられ、スポーツの持つ多様な側面が説明されました。

次に、「まちづくりとは何か?」という視点から、「まちづくり」という言葉が自治体、開発業者、個人といった違いによって対象となる範囲が伸縮すること、「まちづくり」における「まち」がコミュニティに相当することなどが指摘されました。

Zoomで何ができるかという実験も兼ねて高松が自主開催した講演会。鈴村さんはじめ、約20人の方が参加された。後半は活発な質疑応答が展開できた。

また、日本においては効率の良い開発のため地域を用途別に分けて開発を推進する「用途別開発」が主であったものの、開発の主体が「国家」から「コミュニティ」に移行する「まちづくり」は、自治の推進の契機となる可能性が示唆されました。

さらに、スポーツは社会資本であり、結果的に「まちづくり」の「縁の下の力」となることが、「都市社会生活に不可欠なサービス供給者」と「開かれた連帯的コミュニティ」というドイツにおけるスポーツクラブの役割や、可処分時間が増えるとスポーツに費やす時間が増えるというドイツの特徴が挙げられました。

そして、日本においては「集客のための手段」としてスポーツが利用され、ドイツでは「都市に住む人々の日々の生活」をより良くするためにスポーツが用いられるという対比から、スポーツの持つ多様な性格と、「まちづくり」におけるスポーツの果たす役割が検討されました。

講演とその後の質疑応答からは、スポーツの趣味や娯楽としての一面とともに社会的な位置付けが明らかにされるとともに、一つの現象の背後にある文化的、歴史的な側面を理解することが事柄そのものの理解に有益であることが示され、スポーツのあり方と可能性を考える上からも興味深い視座が得られたと言えるでしょう。(了)

鈴村裕輔 (すずむら ゆうすけ)
1976年生まれ。東京都出身。法政大学大学院国際日本学インスティテュート政治学研究科政治学専攻博士後期課程修了。博士(学術)。名城大学外国語学部准教授。法政大学国際日本学研究所客員所員、法政大学江戸東京研究センター客員研究員、立正大学石橋湛山研究センター特別研究員。主な専門は比較思想、政治史、文化研究。野球史研究家として日米の野球の研究にも従事しており、主著に『MLBが付けた日本人選手の値段』(講談社、2005年)などがある。また、2009年4月より『体育科教育』(大修館書店)に「スポーツの今を知るために」を連載し、スポーツを取り巻く様々な出来事を社会、文化、政治などの多角的な視点から分析するほか、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌への出演や寄稿を行っている。野球文化學會会長、日本国際文化学会常任理事・編集委員、石橋湛山研究学会世話人。
(以上、研究ブログより転載)


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参考:
スポーツ嫌いな方、必読です。(小野千佐子さん)
鈴村裕輔さんによる『ドイツのスポーツ都市』の書評
市民活動におけるスポーツの意義(川中大輔さん)
アマゾン学芸出版社著書ページ