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高松:ドイツも同じような予測があります。生活の質と関わってくるんですけども、田舎の方で家を建てようと言う人が増えているとか。仕事スペースがきちんと取れてて、そのうえ庭でバーベキューやら、くつろぐやら、自宅内で完結できる。でも同じく、それほど主流にはならないと思います。

井澤:すでに住んでいるところを、改善していくという方向性のほうが強いと思いますね。


住んでいる地域の担い手、その可能性と問題


井澤:コロナ禍、こんな話もあるんですよ。感染リスクもあるんだけど若い人たちで一旗上げたいという人は都心に集まる。その一方でお年寄りが、都心から離れるというんです。もっとも、高齢者は転居する経済力がある人も限られているから、どうかなとも思いますけどね。

高松:確かに高齢になってからの引っ越しは大変です。

景観、歩行者のみ、緑、カフェ、ベンチ、そして音楽。こうした都市の公共空間は「滞在の質」を高める。(プラハ 2019年)


井澤:しかし、在宅する時間が増えるとね、人々の関心も、住む場所に向くかもしれない。これまでだと、ベッドタウンの家に帰って寝るだけという形があったわけです。しかし週1、2回の出勤となると、住んでいる地域の滞在の質が大きな課題になる。

高松:はい。

井澤:それこそ自転車道の整備やらもっと余暇空間がほしいとか地域ニーズが高まるかもしれない。場合によっては住民同士が連携しながら公園の解放を訴えたり、いろんな行動が出てくるんじゃないかなという気がするんですね。

高松:なるほど、ドイツの地方都市が元気なのは、おっしゃるような職住近接がひとつの背景のように思います。

井澤:それに長寿化の時代、年金生活者は一種のベーシックインカム的ともいえるかもしれません。長年務めた人なら20万弱入ってくる。そういう人は時間的にも余裕があるわけで、じゃあ地域のためにできるだけ貢献しましょうという人は自治会に入ってきてください、という話が出てくる。

長電話の如く、オンラインで対談。左・井澤知旦さん、右・高松平藏


高松:定年後の「地域デビュー」というやつですね。

井澤:そうです。でも問題もある。今は第2の就職で65歳まで働くのが一般的です。さらに「安い年金」との関係で70歳近くまで働く人が徐々に増えている。

高松:高齢者の格差はドイツでも問題になりつつあります。70歳からの地域デビューは辛そう。

井澤:そう。もうエネルギーが枯渇している。実際、地域を担う人材がお年寄りばかりになっていて、地域の活性化ができないというのが、今の自治会の大きな悩みなんです。

高松:コロナ禍がきっかけで、自宅で働くことが増え、出勤も少なくなることで生じそうな、現役世代の地域参加がより重要なりそうですね。

井澤:ほんとそうです。70歳からさらに地域に入って頑張れ、これが本当の「コキ(古希)使われる」ということらしいですわ。

高松:座布団5枚。お後がよろしいようで。深刻なテーマでありながらも、ユーモアあふれる「下げ」をありがとうございした。(了)

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高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら
市街中心地の歩行者ゾーンは余暇、健康、社交などの機能がある。質の高い公共空間だ 


4回シリーズ 長電話対談 井澤知旦×高松平藏
■公共空間の使い方で都市の質が決まる
第1回 ドイツの市街地に本棚、その意味は?
第2回 自転車道はどうつくる?
第3回 オープンカフェが成り立つ基本的な条件とは?
第4回 「滞在の質」という観点から考えよう
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ドイツ・エアランゲンからネットを使って対談。あたかも「長電話」の如く、長尺対談記事の一覧はこちら