市街地で行われたデモ。コロナ禍でのデモの条件のひとつがマスク着用(9月25日 筆者撮影) 

欧州各地で気候変動対策を訴えるデモが今月25日に行われた。筆者が住むエアランゲン市(バイエルン州 人口11万人)でも行われた。

2020年9月28日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


地方自治にも関わる


地球温暖化対策を求める運動「Fridays For Future(未来のための金曜日)」が呼びかけた世界的な動きで、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが始めたもの。毎週金曜日、若者たちは学校を休んで訴え続けた。昨年9月、同氏が行った国連での演説を覚えている人も多いだろう。

コロナ禍であるが、デモの類はマスク着用などの衛生要件満たしていれば開催できる。こういった状況下、エアランゲン市では市内6箇所に分散して開催された。また若者だけではなく、小さな子供連れや中高年ら、関心のある人達も参加した。参加者は1100人。

今年は市内6箇所で行われた。(筆者撮影)
小学生らしき子供も参加(筆者撮影)


「未来のための金曜日」は世界的な動きだが、同時に各支部が自治体の課題に対してもなんらかの形で関わる動きもある。たとえばエアランゲンでは、昨年5月には「未来のための金曜日」同市支部の要請に応えるかたちで、「気候緊急事態」を市議会が宣言。あるいは支部が市内の交通政策に対してもポジショニングペーパーを作成するといった具合だ。


「未来のための金曜日」から透けて見えるもの


ところで、昨年のデモ(2019年9月20日)は日本でも行われた。不確かな情報だが、全国で約5000人の若者が参加したということを耳にしたことがある。この真偽はとにかく、筆者が住むエアランゲン市だけでも5000人をかぞえた。同市周辺の自治体の参加者数は次のとおりだ。

  • エアランゲン市 (人口11万人) = 参加者 5,000人
  • ニュルンベルク市 (人口50万人) = 8,000人
  • フュルト市 (人口11万人) = 2,000人
  • この近隣、人口32,000人の自治体でも500人がデモ。

筆者が住むエアランゲン市および周辺自治体のデモ参加数(2019年9月20日の「未来のための金曜日」)

参加者は思い思いにプラカードなどを持参。(エアランゲン市 筆者撮影)


なぜドイツでこういったデモの類が盛んに行われるのだろうか。
感覚的な言い方をすれば、特別なことではないからだ。同市をみても、頻繁にデモや集会が行われている。しかも火炎瓶を投げたり、警察と過激な衝突がおこるわけではない。生活と地続きのひとつの言論様式として確立されている。その背景を次の3つにまとめて挙げることができるだろ。


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パブリックマインドが地域の創造性のカギ


1 都市構造:
市街地が言論の「公共空間」のようになっている。特に歩行者ゾーン化されている中心市街地や広場はメディアだ

2 下からのデモクラシー:
例えばバイエルン州では憲法で明記されている。デモや集会はそのための重要なものだ。

参考:正しい「手続き」としてのデモ、コロナ禍のドイツ

3 意見形成と意見表明:
「下からのデモクラシー」に参加する個人は意見形成とそれを表明することが求められる。こういうことを学ぶことが、学校教育などに組み込まれている。

参考:ドイツの小学生が「デモの手順」を学ぶ理由(拙稿:東洋経済オンライン)

昨年は市街中心地の広場に5000人が集まった(2019年9月20日 エアランゲン市 筆者撮影)

デモクラシーの健全性を保つのは、思いのほか大変だ。ドイツでも極右政党が台頭し、これを「デモクラシーの脅威」と見る意見も多い。「未来のための金曜日」は一義的には若者たちによる環境問題への働きかけだが、世界中で起こっている運動だ。それゆえに日独を比べたときに、デモクラシーの質とその環境についての違いを検討できそうだ。(了)

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。 最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)
一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら