オープンカフェが成り立つ基本的な条件とは?

2021年6月18日 公開

長電話対談
井澤知旦(名古屋学院大学教授)
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高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

「公共空間」とは何か。都市計画などが専門の井澤知旦さん(名古屋学院大学教授)と、名古屋、ドイツ・エアランゲンをはじめとする、様々な都市を見ながら対談を行った。第3回目は公共空間である都市とコロナ禍対策を見ながら、公共空間における権力と信頼の構造を検討する。(対談日 2020年8月12日)

※対談当時の状況をもとにすすめています。

4回シリーズ 長電話対談 井澤知旦×高松平藏
■公共空間の使い方で都市の質が決まる
第1回 ドイツの市街地に本棚、その意味は?
第2回 自転車道はどうつくる?
第3回 オープンカフェが成り立つ基本的な条件とは?
第4回 「滞在の質」という観点から考えよう
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厳しい都市計画は皆受け入れているのか?


高松:ドイツの都市は、もともと都市の発祥地である旧市街地を「市街中心地」として重要視しています。そして、都市の代表的な公共空間です。

井澤:ドイツといえば、建築とか都市計画なると、かなり細かいところまで決めていて、規制も厳しい。中心市街地なんかはその代表格です。そういう細かい取り決めに皆、賛成しているわけですか?

井澤知旦(いざわ ともかず)
名古屋学院大学教授。名古屋工業大学大学院工学研究科(建築学)終了後、民間シンクタンクを経て1990年に(株)都市研究所スペーシアを設立。地域活性化や都市再生、農業・観光振興等の東海地方のまちづくりを支援している。名古屋学院大学は2012年から。大阪市出身、1952年生まれ。博士(工学)。

高松:そんなことないです。私は市の都市計画の責任者に取材することもあるし、どこかで会えば立ち話もします。それでね、建築資材なんかを扱っている経営者の友人と話している時に、ふと都市計画の責任者の話題になった。そのとたん「ヘイゾー、俺は彼とは友達にはなれない。友達じゃない」なんて言うわけです。

井澤:そりゃ、そうですね。規制する側とされる側ですからね。(笑)


外で飲食する感覚と公共空間


高松:ドイツに住んでいると、些細な違いに目がいくことがある。たとえばビールと食事の感覚も異なるのですが、これも公共空間の使い方に違いがあるかもしれない。

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
昨年は次の2冊を出版。「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)、「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」(2020年11月)。前者はスポーツ・健康の観点からみた都市計画や地域経済、行政・NPOの協力体制について。後者はドイツの日常的なコミュニティ「スポーツクラブ」が都市社会にどのように影響しているかについて書いている。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら

井澤:外での飲食といえば、酒だと花見や川床ぐらいはあるけど、日本は湿度が高いから食品に対する規制が厳しい。ヨーロッパは乾燥しているところが多いですね。

高松:ドイツにいると、まさに「肌感覚」で実感しますよ。乾燥しています(笑)

狭い路地が多いイタリア(ヴェネツィア 2014年撮影)

井澤:そうでしょうね(笑)。イタリアの街なんかだと、ぎゅうぎゅうに住んでいて、広いアパートが多くない。子供が一定の年齢に達すると独立させるから、バラバラ。でも、何か記念あるごとに一家集まるわけですが、室内で集まるのが難しい。それで庭とか広場といった「公共空間」のような場所でワインなどを楽しむ。

高松:住空間が狭いから、外へ押し出されるかたちですね。

イタリアのオープンカフェ(ヴェネツィア 2014年撮影)

井澤:そういうことです。だから公共空間へのニーズ、生活のなかで使うというのがあたりまえ。これは日本になかなかない背景ですね。

高松:なるほど、日欧の公共空間の背景として説得力があります。


ジェイン・ジェイコブスとコロナ


井澤:都市の理想像のような議論にもっていくと、思い出すのがジェイン・ジェイコブスさんの「アメリカの大都市の死と生」。

高松:彼女の著書は、都市論に大きな影響を与えています。

井澤:彼女自身は研究者じゃなくてジャーナリスト。町の中に住み続けて、その生活感の中で書いている。だからたいへん説得力のある評論になっている。

高松:はい。

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