ドイツの市街地に本棚、その意味は?

2021年5月11日公開

長電話対談
井澤知旦(名古屋学院大学教授)
× 
高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

「公共空間」とは何か。都市計画などが専門の井澤知旦さん(名古屋学院大学教授)と、名古屋、ドイツ・エアランゲンをはじめとする、様々な都市を見ながら対談を行った。第1回目は「この町ってすごいね」と思わせる公共空間の条件を考えた。(対談日 2020年8月12日)

※対談当時の状況をもとにすすめています。

4回シリーズ 長電話対談 井澤知旦×高松平藏
■公共空間の使い方で都市の質が決まる
▶第1回 ドイツの市街地に本棚、その意味は?
第2回 自転車道はどうつくる?
第3回 オープンカフェが成り立つ基本的な条件とは?
第4回 「滞在の質」という観点から考えよう
目次ページ


「敷地の4分1が庭」という感覚の都市


高松:コロナと都市を関連づけた時、ちょっとショックだったのがニューヨークです。運動不足になるからと、皆出てくるわけですが、公園が足りないというので、道を人々に開放しました。

井澤:人が溢れ出てくるところといえば道路か河川敷という感じですね。

高松:ニューヨークって行ったことないのですが、セントラルパークなどが有名です。が、それでも十分ではなかった。

 井澤:エアランゲンでまわりに森があるとのこと。ニューヨークに比べると「受け入れ容量」としては十分にある。

井澤知旦(いざわ ともかず)
名古屋学院大学教授。名古屋工業大学大学院工学研究科(建築学)終了後、民間シンクタンクを経て1990年に(株)都市研究所スペーシアを設立。地域活性化や都市再生、農業・観光振興等の東海地方のまちづくりを支援している。名古屋学院大学は2012年から。大阪市出身、1952年生まれ。博士(工学)。

 高松:私が住むエアランゲン市は統計でいえば森が20%ぐらいある。都市計画でつくった緑地や余暇スペースをたすと25%ぐらいに。大雑把に言えば「敷地内の4分1が庭」という感じになるでしょうか。

井澤:公共空間の使い方が今後、大きなカギになってきそうです。このとき、公共空間の「公共」とはなんぞやということが大切になってくる。ドイツはどうですか?


どう違う?日本とドイツの「公共」


 高松:個人が公共性を作っているという考え方が基本ですよね。そこで重要なのは、誰にでも開かれているから、「イニシアティブをとる自由もある」いうこと。

井澤:なるほど。

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
昨年は次の2冊を出版。「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)、「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」(2020年11月)。前者はスポーツ・健康の観点からみた都市計画や地域経済、行政・NPOの協力体制について。後者はドイツの日常的なコミュニティ「スポーツクラブ」が都市社会にどのように影響しているかについて書いている。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら

高松:そのなかにNPOなんかがある。公共をドイツ語でオッフェントリッヒカイト(Öffentlichkeit)といいますが、語源的にいえば英語の「オープン」というような意味が入っていて、しっくりきます。

第3章 コンパクトシティのアクティビティ:歩いて10分のメインストリートが賑わう理由

井澤:公共空間を英語で言うとパブリックスペース。しかし日本でパブリックの概念は市民とか大衆ではなく、お上、国などの役所ですね。お役所が管理する空間がパブリックスペースです。

 高松:日本とドイツの違いとして大きなところですね。

 井澤:公園がわかりやすい例です。行政が管理して問題がない時はそれでも良いのかもしれません。しかしわれわれが理想としている使い方は何かっていう議論がほとんど積み上がってない。

 高松:お上主導というのは、いわゆる開発国型のやりかたです。

 井澤:そういうことです。江戸から明治への転換時期、欧米に追いつかなければということになった。そのとき国とか県が主導権を握って速急にインフラを整備していきました。そしてその恩恵を民間がうけとるという依存関係もつくった。そして、この構造は戦前から戦後にまで続きます。国がやること、自治体がやることが全て善であることを前提にしています。


ベーシックインカムと「公共への貢献」はセットにすべき


井澤:日本はこれまでワークライフバランスも、なんだかんだいってあまりとれていない。私の世代なんかだと、バリバリ働いて家庭や地域のことは顧みなかった。ドイツの場合、地域に関わらなきゃというのが意識としてありますか?

高松:はい。でも、もっと気楽ですね。おもしろいのは4000人ぐらいの村。これぐらいでも村まつりとか消防のNPOが9つぐらいある。日本の感覚でいえば、お祭りをやる自治会の実行委員会とか消防団です。しかし、形式でいえばあくまでもNPOで地縁組織ではない。

井澤:なるほど。

対談の様子(左:井澤知旦氏、右:高松平藏)


高松:だから住んでいるからという理由で入らなくてもいい。自由意志で入って、抜ける自由もある。年齢も現役世代がけっこういます。都市自体が赤の他人の集まりで、「同好の士」がNPOに集まる構造ですけど、村の中でも制度的には同じ。

井澤:なるほどね。大上段に構えずとも日常的にそういうふうに地域に関わっているということですね。

高松:たとえばね、スポーツクラブ。これもNPOのような組織で運営していますが、運動ばかりしているんじゃなくて、いろんなボランティアのプラットフォームになっている。クラブに貢献するようなことがあれば、きちんと評価してくれる。もっと貢献したら、市のクラブ連盟が、もっともっと貢献すれば市がきちんと評価してくれる。

井澤:なるほど

高松:先ほどの「イニシアティブをとる自由」とよくあう。平等というのは差がないともいえるわけですが、その中で、公のために貢献した人は皆で認めようという制度がやはり必要ですね。

ページ:  1 2 3

次ページ 日本の「公共」にも変化が・・・