高松:難しい問いですね。私の理解ではドイツの都市というのは余暇空間を作ることと、建物を集積させることの綱引きの歴史という一面がある。バイエルン州の憲法でも、一定の割合で緑地やら余暇空間をつくらなければいけないという文言があるのですが、これは綱引きの結果に見えます。
空間資源とレジリエンス
高松:コロナのみならず、災害などと都市を関連付けたときに、レジリエンスという概念がキーワードとして登場することがありますね。
井澤:はい。もともと心理学の言葉で、現状に適応したり、ダメージに対して回復する力といった意味で幅広い分野で使われるようになりました。都市に関していえば、震災の時に使用したものだから、まるで震災からの復興を意味するような意味でよく使われる。
高松:確かに「回復」と訳すと、おっしゃったような意味になりやすい。しかし「弾力性」という訳で見ると、もう少し都市を考える上でのヒントになるように思うんです。
井澤:というと?
高松:都市全体を「空間資源」と考えたとき、たとえばコロナで散歩や日光浴をする空間が必要になったとき道路を転用する。そういう弾力性ですね。
井澤:道路のみならず、公園や河川など、多様な公共空間が多いほど、弾力性の高い都市といえそうですね。
高松:はい。さらにね、日本でホテルをコロナに感染した人を収容するのに使った例がありましたね。都市全体を空間資源という捉え方をしたときに「今、ホテルを転用すべき」という判断ができるかどうか。こういうものも「都市の弾力性」だといえる。
井澤:建築家の隈研吾さんがよく似たことを言ってました。アフターコロナの町というのは、空間をうまく対応させるような仕組み、例えば機能転用しやすい仕組みを持っていることがいいんだと。
高松:なるほど。
井澤:例えば昼間はオフィス、夜はバーに使うとかね。同じ建物でも時間的によって用途が変わる。あるいは緊急時にショッピングモールが避難所になる、そういう使いかたができる空間を持っていると先程の言葉でいえば「弾力性」が高くなるわけですね。そういう多様性が求められると発言していた。なかなか説得力あるなと思いました。
都市への期待
高松:日本との対比で、ドイツの場合、都市に何を期待しているのかといえば、「生活の質」が大きいのではないでしょうか。戦後の大量生産、大量消費の文脈でいえば、環境問題も生活の質の問題の一部として市政が動いているように思います。
井澤:なるほど 、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)ですか。
高松:はい。1990年代に「社会都市」という都市開発の支援プログラムができるのですが、これも建築や余暇空間づくりというだけでなく、「住人たちが集まることができること」なども含まれている。それは「社会」という言葉に集約されていると考えます。ハード以外のものも都市開発の課題というわけですね。
井澤:そういうのってドイツの特徴?
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