日本の地域を見ると、多くの「資源」があるのに、地域内全体で最適に使われていないと思うことが多い。津山市(岡山県、人口約9万9000人)では、市営や学校などの図書館が連携。いわば組織を超えて、地域全体の知識・学習・文化の資源化したかたちだ。

2021年2月12日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


地域内の図書館連携で、地域資源化


津山市立図書館は美作大学図書館、津山高専図書館、市内の6高校の図書館と2008年から連携している。これによって市内の読書・学習環境、利用者の利便性を高めているそうだ。

この連携は示唆にとんでいる。地域内における、資源活用の全体最適化といえるからだ。

ところで、地域には文化、スポーツ・運動、余暇、健康、学習、社交といったように、人々の「生活の質」や地域の社会そのものをよくするために必要なものがある。これらを「地域クオリティの要素」と呼んでおこうか。

ものの人々の「生活の質」や地域の社会そのものをよくするために必要なもの「地域クオリティの要素」を支えるものは、すでに地域内で意外と揃っているのではないか?


ここで、よくよく地域内全体を見渡すと、例えば学校には図書館やらグラウンドなどいろいろある。しかし使えるのは主に生徒だけといったように、学校内で完結していることが多い。


ドイツの地域に見るグラウンドの融通


ところが学校を「地域クオリティの要素」を支える資源と考えると、使い方や他の組織との連携の可能性などがぐっと広がる。

例えば、ドイツにはNPOのような非営利組織で運営されている「スポーツクラブ」がたくさんある。子供から高齢者にいたるまでがメンバーで、スポーツを軸にしたコミュニティと考えるとよい。

それで、クラブ所有のグラウンドを近くの学校が体育の授業で使うことがある。また逆に学校の体育館をスポーツクラブが使うこともある。

所属組織にとらわれず、「地域のスポーツ資源」として最大限に活用しているかたちだ。


「ハード」「ソフト」の地域資源をリストアップすることから


津山市の図書館や、ドイツのグラウンド/体育館の融通の様子を鑑みたとき、次にようなことがいえる。

地域で必要な施設はもちろん作るべきである。
しかし、まずは「地域クオリティの要素」を支える「資源」がどのぐらいあるのか洗い出す作業が重要だ。これは施設などの「ハード」だけでなく、管理やプログラムの発案などができる人材や組織などの「ソフト」も含まれる。

その資源の「持ち主」は行政や企業、NPOなど、さまざまであろうが、相互に連携することで、地域の資源として、全体最適化が見込める。

また、地域資源の顕在化とその活用化の過程そのものが、地域内のアクターを結びつけることになるだろう。

津山市内の様子(2017年 撮影:高松平藏)


ところで、津山市は数年前に講演でお邪魔したことがある。
昨年もオンラインで講演の機会をいただいた。先ごろ、この連携が文部科学省の図書館実践事例に取り上げられたそうだ。失礼ながら、このニュースを聞いて連携のことを知った。「三館連携・津山モデル」とよばれているそうだ。(了)

リンク:
館種を超えた「三館連携・津山モデル」(岡山県津山市立図書館)PDFファイル
文部科学省の図書館実践事例集


著書紹介(詳しくはこちら
地方の都市内にある「資源」を最大活用化


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら