地域のデモクラシーには地域のジャーナリズムが必要だ。小さな町でも、町の名前がついた地域紙が発行されているのがドイツ。しかしながら、経営には長年腐心している。地域社会における地域新聞の役割は大きいだけに今後が懸念される。

2020年7月10日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

4割のドイツ地域紙危機

連邦デジタル・新聞出版社協会が今年5月にショッキングな調査結果を発表した。2025年にはドイツ国内の40%の地方紙の収益性がなくなるという。同協会によると2014年の段階では約11,000の自治体すべてに地方紙が発行されていたが、すでに720の自治体で新聞がなくなった。

この調査の数字について、少し補足しておかねばなるまい。
ドイツの自治体は人口規模の小ぶりなところが多いが「都市」として機能している。10万人を超えると「大規模都市」とされる。

ではドイツにおける「都市」とはなにか。一般に人や建築物の集積という特徴があるが、ドイツの都市らしさを形成しているのはさらに経済・文化・教育・福祉などが集積し、加えて健全なデモクラシーが伴う「都市社会」が整っているかどうかにかかる。

この都市社会にはエリア内での独立したジャーナリズムが不可欠だ。とりわけ地域の新聞・テレビ・ラジオなどはその器だ。権力のチェック機能などはジャーナリズムの代表的な役割だが、地域紙においては次の3つがより大切だろう。

・地域内の出来事の情報流通と、その背景の提示
・多様な意見が閲覧できること
・読者が投稿ページ等で意見を表明できること

デモクラシーといえば投票率に目がいくが、それは氷山の一角にすぎない。それ以上に個人の意見形成が大切である。そのためには上記のような地域紙の機能が一役買う。

参考:ドイツの小学生が「デモの手順」を学ぶ理由 (東洋経済オンライン)

また地域紙では地域の問題を扱う。読者は生活空間についての報道を読み、これによって生活空間での問題・課題についての意見を形成していく手がかりになる。

三條新聞紙面 1946年創刊 発行部数35,000部(四方洋著「新聞のある町 地域ジャーナリズムの研究」より)

日本にも地域紙はある

一方日本はどうだろうか。地域紙もあるにはあるが、全国紙、せいぜい県紙が中心だ。もともと500紙以上あったそうだが、戦時中の軍部による新聞統制令でいくつかの全国紙に加え、地域紙が都道府県ごとに合併させられた。これが現在の全国紙・県紙が中心の市場構造につながっている(*1)。

それでも地域報道はある。
例えば三条市(人口10万人、新潟県)には「三條新聞」という市の名前がついた新聞があり、新潟県の県央である三条市・燕市(7.7万人)などのエリアをカバーする報道サイト「ケンオー・ドットコム」がある。地域に複数の地域報道がある。

同報道サイトを運営するのは佐藤雅人さん。記者・編集者・経営者を一人でこなす。長年、新聞社での記者経験もあることから取材・執筆に関してプロの倫理観とノウハウが伴う。毎日5、6本の記事をアップ。同地域からのアクセス数はかなり高い。

「ケンオー・ドットコム」のサイト画面。行政発表以外の記事にも注力している。

佐藤さんは同サイトのミッションとして、次のようなことを掲げている。

ケンオー・ドットコムは、地域の情報を拾いあげて共有し、共感を呼ぶことで地域の人と人とをつなぎ、主体的に活動しようとする人たちをサポートし、地域の包摂性の向上に貢献します。

ケンオー・ドットコムのFacebookページより

参考記事:佐藤雅人さんインタビュー「社会包摂を高めるという地域報道の使命(新潟三条市)」



つながっている、地域のジャーナリズムと投票率

同報道サイトのが掲げるミッションは、地域社会のデモクラシーとジャーナリズムを強く関連付けるドイツとはやや趣がことなる。しかし報道によって、地域社会を活性化につながることを意識しているのがうかがえる。

また、ジャーナリストの四方洋氏は自著で、日本国内で地域紙のある地域は共同体としての結びつきがあり、文化度も高く、外に広がるような透明性がある雰囲気があると述べている(*2)。

ひるがえって、チューリッヒ大学の政治学者らによる2018年の調査によると、スイスで地方紙の発行部数が多いほど、また地方政治に関する報道が多いほど、投票率は高くなるという。四方氏が持つ印象とも符号する。

だがその器であるメディアをどう運営していくべきか。紙の新聞を宅配するビジネスモデルは限界だ。サイト運営のみで十分な収益構造を作るには容易ではない。独立した「地域ジャーナリズム」を担保しつつ、安定したビジネスモデルが求められる。(了)

参考文献
*1 築地達郎. (2004). 現代の新聞経営. 編著: 柴山哲也, 日本のジャーナリズムとは何か .ミネルヴァ書房. p304
*2 四方洋. (2015). 新聞のある町 地域ジャーナリズムの研究. 東京: 清水弘文堂書房 p217

【修正済】燕市の人口を8.8万人と書いていましたが、誤りでした。訂正しました。

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。 最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)
一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら