「6割の楽観主義、4割の悲観主義」の未来志向で、創造的にぼちぼち進んでいきましょう。これが講演のメッセージ。

今年7月1日に滋賀県草津市内で行われた「第48回 近畿地区高等学校PTA連合会大会滋賀大会」に招聘いただき、講演を行った。全体のテーマは「みんなで考えよう!『PTAのこれから』」。私の講演テーマは「ドイツからの眼差し、未来志向でPTAを考える 」。この講演、1100人の皆さんが聴いてくださった。

2023年10月11日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


公の教育は国の価値観が反映されている


昨今、問題になっているPTA。個人的には「子育て」の時期に日本にいなかったため、肌感覚での日本のPTAについてはわからない。しかし、自治会のように、「自由意志参加」のものが、実質「強制」に近い状態になりやすい日本の典型例としてドイツからは見える。昨今のPTA廃止論もこれまでの実態に対する違和感が顕在化した形ではないか。そんなPTAの議論のためにドイツの視点から「学校と保護者」「ドイツの学制と国家の価値観」「近未来」について話した。

学校と保護者はステークホルダーの関係であるが、その関係がうまく動くためには、何らかの仕組みは必要だ。それが日本の場合、PTAである。講演ではドイツの仕組みを紹介するとともに、さらに200年の学制の歴史を検討した。というのも公の学校教育は国の事情や、国が重視する価値観を背景に作られていくからだ。とりわけ第二次世界大戦後のドイツは、デモクラシーが機能することにつながる教育を重視した。

京都新聞 2023年7月5日付

近未来に重要なことは?


さて、講演タイトル通り「未来」も語らねばならない。少し見えている未来から、次の3点を検討した。

  1. 【切り離せない技術と社会】AIなどの新しいテクノロジーはもはや、社会との関連性抜きでは進めてはいけない。
  2. 【創造性と自己学習】求められる人材像も変わる。かつての体育会系「エコノミックアニマル」ではなく、創造的でコミュニケーション能力が問われ、いつでも思わず自己学習してしまうような人材が求められる。
  3. 【生産性と生活の質】19世紀以降の枠組みでは「労働/自由」から時間の使い方が検討された。これからは「生産性/生活の質」を対峙させた議論が必要だろう。

学校教育がその国・時代の価値観を背景に作られていくとするならば、未来の学校は上記のようなことを考えていくべきだろう。そしてステークホルダーとしての保護者もこの価値観を勘案しながら、学校と一緒に活動すべきだ。

そして上記のような未来には、自己決定と参加で成り立つ「デモクラシー」がより重要になるということを述べた。

一方で、例えば新しいテクノロジーの出現などには恐怖や懸念がもたげる。確かに用心は必要だ。しかし未来に向けて積極的に進みたいものである。それだけに「6割の楽観主義、4割の悲観主義」の未来志向で、創造的にぼちぼち進んでいきましょうということをメッセージとした。

また講演の後には、大会会長の炭谷将史さん、草津市PTA連絡協議会元会長の中島美典さんと一緒にパネルディスカッションも行われた。「虫の目、鳥の目、外部の目」からの議論ができたと思う。7月5日付京都新聞の記事を貼り付けておく。(了)

京都新聞 2023年7月5日付

高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら
部活のないドイツ、子供たちはスポーツクラブでスポーツ。スポーツクラブは「デモクラシーの学校」と呼ばれている


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。