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島田:ヨーロッパはというと、戦争の連続です。しかも覇権主義でした。それで戦争ばかりしてるから武器も発達する。

高松:その先にやってくるのが黒船ですね。

島田:そうです。幸い日本は結集して、中国みたいに分割されずにしのいだ。しかも本歌取りぐらいの勢いで、覇権主義になった。

高松:ヨーロッパのマネをそこまでしてしまった。

島田:完全に行き過ぎですよね。それで戦後はアメリカから「日本は民主主義にしなけりゃ危険だ」と押し付けられたかたちです。でも、よくよく考えたら250年平和を保っていた時期がある。僕は明治維新よりも江戸時代をもっと勉強するべきだと。

高松:おっしゃることはよくわかります。
一方、ドイツを見ると当時最も民主的とされたヴァイマール憲法(1919年公布・施行)があった。しかし合法的にヒットラーを生み出した。おっしゃるように民主主義は思いのほか脆弱です。それゆえ戦後は民主主義の健全性や持続性を担保するための教育や社会システム、それに安全装置がたくさんついています。

「人間の尊厳は不可侵!」。基本法(憲法に相当)で明記された人間の尊厳は繰り返し確認される。(エアランゲン市、高松平藏 撮影)



島田:確かにヨーロッパの人権を中心にすえた考え方は、われわれに欠けていて、学ばねばならない。しかし、民主主義は問題もよくおこる。単純にありがたがっているだけではだめだと思う。たしかにね、日本にとって民主主義は自分たちで作ったものじゃない。しかしこれを自分たちで進化させる活動を何かしているか。そこが問題だと思っています。

高松:なるほど、重要な指摘ですね。
他方、日本という国はヨーロッパの概念体系で造形されています。それでいて以前から日本にあった考え方や価値観がある。そのため日本という国は、ダブルスタンダードで動いているようなところがあって、ドイツから見るともどかしく見えることがあります。

島田:まあ、そうですね。それにしても、人類に貢献するような仕組みとか、新たな哲学を打ち立てるタイミングではないでしょうか。


一国でしか通じないものは「哲学」でも「コンセプト」でもない


高松:ところで、島田さんもどこかのインタビューでおっしゃっていましたが、ドイツは長い時間感覚で理論的に考えるのが得意です。日本は目の前の処理に長けています。企業でも、たとえばシーメンス社なんかでもそうとう長い時間感覚でもって経営方針をたてている。

島田:はい。

「日本から人類に貢献するような仕組みとか、新たな哲学を打ち立てるタイミングですよ」という島田さん(対談中の画面)



高松:島田さんのお話を聞くと、ご自身もそうとう長い時間感覚と幅広い見解をお持ちです。日本企業の経営となると、もどかしく感じることはありませんか?

島田:いやもう、もどかしさとか全然ないです。やりたい放題やってます(笑)

高松:ふふふふ。

島田:シーメンスなんかでは意見の強い人たちが大変多い。彼らを説得しようと思うと、かなり理論武装が必要です。日本企業だと、僕のように高いポジションを与えてもらうと、みんなだいたい言うことを聞きます。でも本気かどうかはまた別。

高松:面従腹背なんて言葉もありますからね。

島田:はい。ですから、大切になってくる概念を打ち立てて、みんなにそれを浸透させていく。それとともに議論を活発にする。これが大切。僕だって間違っているかもしれないですからね。こういうことを通じてコンセンサスを作っていく。借り物ではない、新しいコンセプトを一緒に作ることに挑戦していく。

エアランゲン市はシーメンス社のいち拠点。写真は市内の社屋のひとつ(撮影 高松平藏)



高松:「議論」の話になると、これまでの話でも出てきたように、ドイツはフラットな関係で意見を言い合う姿勢が強い。こういうことが大切だと思いますが、iflLnkで可能性は感じておられますか?

島田:それは、もう。iflLnkはスーパーフラットなコミュニティです。可能性はあります。企業やユーザーがアイデアを出し合って、ハードも扱える。マルチステークホルダーの利益も担保する。私は政治家ではないですけど、ある意味、ifLinkは社会実験でもあるわけです。こういうことが日本でできるんだということを示すことで、日本社会全般、ひいては地方コミュニティにも影響を与えられるのではと思っています。

高松:なるほど。

島田:それでね、アイデアをきちんとモノに作れる状態になった段階で海外へも持っていきますよ。この話をダボス会議でもしたら、めちゃくちゃウケました。「ついに日本からこんなコンセプトがきた」というわけです。

高松:日本限定というわけではない。

島田:そうです。一国でしか通用しないアイデアはだめなんです。そんなものは哲学でもコンセプトでもない。ifLinkはとてもシンプルなんでどこでも一緒なんですよ。その上でコミュニティにどれだけ貢献するだとか、コミュニティでどんなものが生まれるかはその国によって、違う花が咲くのだと思います。(了)

対談を終えて 
「資源贈与型コミュニティ」の可能性

たとえばの話である。町の中で人々がアイデア、技術、時間といった自分の「資源(リソース)」を贈与し続けるとどうなるだろうか?
おそらく、常にアップデートし続けるダイナミズムを持つ町となるのではないか。それと同時に「個人の資源を贈与しても損にはならない。まわりにまわって自分が住む町が豊かになる」という一種の信頼性も獲得していくだろう。

ifLinkはそれに似ていると思った。
ただドイツ社会が作りあげた「交流の流儀」を見ていると、疑問を感じる点もあり、しつこいぐらい島田さんに迫った。

しかし、個人の「資源(リソース)贈与」を繰り返していくうちに理想とされる流儀が導きだされ、実際の行動に反映されるだろう。これがまた思惟され、より高い理想的な交流の流儀が論じられるという循環が生まれるかもしれない。

ifLinkは「製造業の社会化」であり、新しい製造業の「思想」だ。5年後、10年後、きりの良い時期にifLinkについて島田さんの見解を聞いてみたいと思った。(高松平藏)

4回シリーズ 長電話対談 島田太郎×高松平藏
■製造業発のコミュニティは次の社会を作れるか?
第1回 GAFAの本質はコミュニティ
第2回 ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」
第3回 新しい価値を生み出すコミュニティの条件
→第4回 一国でしか通用しないアイデアはだめ (最終回)

ドイツ・エアランゲンからネットを使って対談。あたかも「長電話」の如く、長尺対談記事の一覧はこちら