ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」

2020年7月31日公開

長電話対談
島田太郎(東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者)
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高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

市場調査などに基づいて「作り手」が開発したものを、「使い手」が使ってきたのがこれまでの製造業。しかし、両者が自由にやりとりできる場があれば、もっと違うかたちのモノやサービスが実現するだろう。このためのオープンコミュニティ「ifLink」を開発したのが、東芝デジタルソリューションズ。「コミュニティ」のあり方が大切なカギになってくる。ドイツ在住経験を持ち、欧州市民社会のコミュニティを見てきた島田太郎さんと話した。前回とは一転して今回はドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」の様子を見ていく。(対談日 2020年4月17日)

4回シリーズ 長電話対談 島田太郎×高松平藏
製造業発のコミュニティは次の社会を作れるか?
第1回 GAFAの本質はコミュニティ
→第2回 ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」
第3回 新しい価値を生み出すコミュニティの条件
第4回 一国でしか通用しないアイデアはだめ (最終回)


息子がスポーツクラブに入った話


高松:私はドイツのエアランゲン市に住んでいます。島田さんもシーメンス社の専務執行役員として、この町で2014年から1年半ほどご家族で滞在されていた。ご子息がスポーツクラブに入っていらしたとのことですが、いかがでしたか?

島田:息子がバスケットボールをやりたいというので、スポーツクラブに入れました。

高松:ドイツには「スポーツクラブ」がたくさんあります。日本にあまりないのでイメージしにくいですが、フェラインというNPOのような非営利法人です。ドイツでスポーツをするといえば「スポーツクラブ」。日本の学校のような部活がないので、中高生もスポーツクラブに入る。ドイツ全国で9万。人口11万人のエアランゲン市で100ぐらいあります。

島田太郎(しまだ たろう)
新明和工業に1990年入社し、ボーイング社等に出向し航空機開発に携わる。その後も複数の会社で要職を務める。シーメンスAG出向時、ドイツ・エアランゲン市に滞在していた。シーメンス関係では、シーメンス インダストリーソフトウェア株式会社 日本法人の代表取締役社長兼米国本社副社長等を務めている。
2018年に東芝入社。執行役常務などを経て、2019年10月から東芝デジタルソリューションズ 取締役社長にも就任。
1966年生まれ、大阪府出身。


島田:そうですね。サッカーにはじまり、種目も多い。エアランゲンなどはハンドボールが強いですね。

高松:息子さんは、エアランゲン市内のスポーツクラブに入られたのですか?

島田:はい。とりあえずね。しかし、息子はいまひとつチームにあわなかった。高松さんの「ドイツのスポーツ都市」にも書かれていましたけど、日本の学校内の部活と違うので、合わなければ、ほかのクラブに入ればいい。

高松:そうですね。

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島田:そこで、いろいろ探して、たどりついたのがバンベルク市。この町は住んでいたところからは自動車で約30分の距離。7万8000人ほどの小さな町ですけど、バスケットボールが強くて「フリークシティ」と呼ばれている。この近くのブライテンギュースバッハというところのクラブに入った。ここのチームがむちゃくちゃ強い。

高松:そうなんですか。知りませんでした。

島田:それでね、とにかく試合があることだけわかったので、自動車で行ってみた。地域のクラブだから当然、日本人なんかいないでしょ。みんなものすごく見るわけですよ。「なんやこいつら」みたいな。

高松:まあ、そうでしょうね。雰囲気は想像できます。

ドイツでスポーツといえば、子供も大人も「スポーツクラブ」で行うのが主流。各地域に根付いている。(写真=高松平藏)



島田:それで、そのへんにいる人をつかまえて、どうすればクラブに入れるのか尋ねた。当時、息子は中学生だったのですが、プロバスケットボールの下部団体の養成チームにいれてもらった。

高松:それはすごい。


「お前は上のチームへ行け」


島田:おもしろいのは、より上部のチームに移ることをコーチから勧められたこと。ドイツのクラブにはこういうことがあると、本でも紹介されていましたけど、息子がちょっとうまくなってきたらね、コーチが「お前、(もっと強い)むこうのチームへ行け、トライアウトがあるから受けてみろ」と。

高松:はい。そういうケースけっこうあるようですね。

島田:自分のチームを強くするというより、実力にあったところでプレーすべきという感じなんですね。

高松:そうですね。これがスポーツクラブの面白いところです。だから下手でも下手なりにスポーツを楽しめる。それで、息子さんのその後は?

島田:ドイツ出身のダーク・ノヴィツキー(NBAのダラス・マーベリックスで20年にわたり活躍)という有名な元選手がいます。そんな彼を育てたホルガー・ゲシュウィンダーというトレーナーと知り合った。

高松:それはすごいですね。

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)。
「地方都市の発展」がテーマ。各著書では、この対談で触れる「ドイツのコミュニティ」の様子についても具体的な例を挙げて書いている。1969年生まれ。
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島田:ノヴィツキーはバンベルクのビール工場の一角を借りて屋根付きのバスケットコートを作っていて、彼の師であるゲシュウィンダーさんが教えている。

高松:なるほど。

島田:さらに毎年、ミュンヘン近くのシュタルンベルクというところでキャンプを行っていて、ゲシュウィンダーさんは色んな国から参加者を集め、彼のメソッドで教える。これがまあ、MBAも注目しているわけです。そんなところに息子も参加できた。

高松:それはいい経験をされましたね。


友達作るのは難しいドイツだが・・・


島田:ところでね、ドイツで働きだしたころ、会社の人が「ドイツ人の付き合い方」というのを教えてくれた。ずばり「ドイツ人とは友達にはなれない」。(笑)

高松:その心は?

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