GAFAの本質はコミュニティ

2020年7月29日公開

長電話対談
島田太郎(東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者)
×
高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

市場調査などに基づいて「作り手」が開発したものを、「使い手」が使ってきたのがこれまでの製造業。しかし、両者が自由にやりとりできる場があれば、もっと違うかたちのモノやサービスが実現するだろう。このためのオープンコミュニティ「ifLink」を開発したのが、東芝デジタルソリューションズ。「コミュニティ」のあり方が大切なカギになってくる。ドイツ在住経験を持ち、欧州市民社会のコミュニティを見てきた島田太郎さんと話した。4回に渡ってお送りする。(対談日 2020年4月17日)

長電話対談 島田太郎×高松平藏
■製造業発のコミュニティは次の社会を作れるか?
→第1回 GAFAの本質はコミュニティ
第2回 ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」
第3回 新しい価値を生み出すコミュニティの条件
第4回 一国でしか通用しないアイデアはだめ (最終回)


実は大した技術ではない


高松:重責を担う大変なお仕事を島田さんはされてはいます。しかし正直なところ私の関心からは遠かった。そんな中、ifLink(イフリンク)という新しいIoTプラットフォームを3月に公開されました。

島田:はい。

高松:ここでカギになるのは人々の交流とお聞きしています。つまりコミュニティのあり方が課題になる。島田さんはコミュニティについて、実はドイツで刺激を受けたとか。それで一気に興味がわきました。

参考:ifLinkオープンコミュニティ公式サイト画面


島田:まず東芝は「これがなければスマホが作れない」というようなNAND型のメモリを開発しました。これはすごい発明なんです。ところがですね、GAFA※のほうがずっと儲かっている。その差はなんだということになるんです。※GAFA:グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの頭文字

高松:なるほど。そのくせGAFAは技術的にはたいしたことない。

島田:原子力発電所のシステムと言った非常に複雑なシステムに比べると、Facebookにしてもインスタにしても、シンプルなソフトウェアだと思います。しかし利益も企業価値も100倍ぐらいあがっている。でもそれは彼らが作るコンテンツで儲かっているわけではないんです。コンテンツはみんなが集まってくるコミュニティそのもの。Facebookなどは勝手に色んなコミュニティが生まれる仕掛けが優れているのです。

高松:ifLinkも同様の仕掛けなんですね。

島田:はい。そしてifLinkも実は仕組みとしては大したことはない。(笑)

写真=東芝提供

島田太郎(しまだ たろう)
新明和工業に1990年入社し、ボーイング社等に出向し航空機開発に携わる。その後も複数の会社で要職を務める。シーメンスAG出向時、ドイツ・エアランゲン市に滞在していた。シーメンス関係では、シーメンス インダストリーソフトウェア株式会社 日本法人の代表取締役社長兼米国本社副社長等を務めている。
2018年に東芝入社。執行役常務などを経て、2019年10月から東芝デジタルソリューションズ 取締役社長にも就任。
1966年生まれ、大阪府出身。


ifLinkの新規性は?


高松:なるほど(笑)、ではFacebookなどとは異なる新規性はどこにあるんでしょう?

島田:まず、ネット上で人が交流魅力を作りだしているという事です。

高松:コンピュータのOSのひとつ、「リナックス」なんかは不特定多数の技術者がネット上でわーっと集まり開発された。

島田:次の時代は、そこにハードが入ってくると一気に難しくなる。カギはIoTです。

高松:IoT(Internet of Things)、これはモノのインターネットと呼ばれているものですね。例えば、センサーのついたポットがネットとつながっていると、使用状況なんかがデータ化できる。こういうものがなぜ難しいのですか?

島田:まずね、ifLinkは最終的に「作る側」「使う側」両方の人たちが集まる場所にしたいのですが、まずは「作る側」の人たちに集まってもらって、「開発コミュニティ」をつくっています。

高松:先日、「サイバーキックオフ」イベントが行われましたね(2020年3月30日)。「作る側」の人たちがたくさん出てきた。

ifLink オープンコミュニティ サイバーキックオフの動画

島田:はい。IoTの話をすると一社の機器でないとつながらないといった問題がありました。その違いをまず越える。

高松:なるほど。ハードが関わる点が新規性なんですね。


いろんな人に「使う側」のコミュニティに入ってほしい


高松:コミュニティに「使う側」の人が入ってきたらどうなるんですか?

島田:例えば、私の妻なんかの要望を聞くと、「作る側」からはなかなか出てこないリアルなものが出てくる。「家を出るときに必ずガスが消えるようにしてほしい」なんて言うわけです。

高松:確かに、生活に密着したものですね。高齢者といった人も「使う側」として入ってくると面白そうです。

島田:そうです。「使う側」の「共創コミュニティ」にそういう入ってくると面白くなる。たとえば今だとキーを持って自動車から離れると自動的にロックがかかる。しかし自動車メーカーに「ウチにはガレージの開け締めもあるから、自動車のロックと連動してほしい」と言っても「そんなもん、できまへん」となる。でも自動車メーカーとガレージを作っているメーカーさんがifLinkの「開発コミュニティ(作る側)」に参加していると、それが可能になるんです。

高松:なるほど。

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)。
「地方都市の発展」がテーマ。各著書では、この対談で触れる「ドイツのコミュニティ」の様子についても具体的な例を挙げて書いている。1969年生まれ。
プロフィール詳細はこちら


島田:また、「ウチはそこまでいらんけど、かわりにガレージから玄関まで長い。だから、そこまでの電気をつけてほしい」という人もいるかもしれない。するとガレージを作るメーカーさんと家を作るメーカーさんによって、そういうサービスが実現する。ガレージにトリガーとなるスイッチがあると自動的に家までの照明が点灯する。

高松:ほかにももっといろんなことが出てきそうです。

島田:そうですね。たとえば子供が小さくて見守りという課題を抱えている人たちが集まって「ああいうのがほしい」「こういうのが必要」というのが出てくるとする。それに対して「作る側」の人たちが「まずはやってみよう」というハッカソンのように集中してばーっと作ってしまう。組み合わせも無限にある。 ※ハッカソン:複数チームがマラソンのように与えられた時間で、プログラミングに集中してアイデアや成果を競い合う開発イベント

高松:確かにメーカー一社ではできないことですね。しかし、現在ではスマートフォンで近いことがけっこうできるのでは?

島田:はい。今はユーザーインターフェースがすべてスマホになっている。でもね、ここで想像していただきたい。わざわざスマホを立ち上げなくてもボタンをぽんと押せば、必要なものが作動する仕組みが展開される。そういう状態が日常にはいってくると、世の中の感覚ががらりと変わる。

高松:なるほど。ネット上ではモノ以外のアイデアやコンテンツ、技術などはいろいろ繋がりましたが・・・

3月30日に行われたifLink オープンコミュニティ サイバーキックオフの様子(写真=東芝提供)



島田:そう、そういう接続がモノとモノでできるようになる。みんななんとなく、そうなるんだろうと思っているのですが、そのためのスタンダードがなかなかできてこない。ifLinkはそれをいろんな人たちで作るためのものなんです。

高松:だから、「コミュニティ」なんですね。


Give and give … and giveが大切


島田:まずは、いろんなものを作れるような状態が必要です。それでいろんな企業にifLinkにはいっていただいた。(対談当時)すでに100社集まっています。今年中に250社に増やしたいと思っています。

高松:予想以上に集まったとお聞きしています。これは皆、同じような問題意識があったということでしょうか?

島田:そういうことです。でもね、大きな家電メーカーさんは、なかなかのってこない。

高松:まあ、そうでしょうね。

島田:ifLinkそのもので弊社が儲かるわけでもないんです。このコミュニティではGive and give and give! が大切。せこいやつはダメだと。(笑)

高松:キックオフイベントでも強調されていましたね。 (笑)

島田:はい。そういうふうにすると全く違う世界ができてくる。要するにネットの世界でそういうことをやったのがGAFAの人たちですね。
大切なのがコンセプトとしてのコミュニティ。参加するのは簡単で費用も安いですが、その代わりにアイデアでも技術でもなんでもいいから、出してくださいねと。単純に与えられたものに対応するだけでなく、Give and give。これを繰り返しているうちに利益にもつながる。

高松:キックオフイベントでは、自動車部品サプライヤーのデンソーさんが自動車そのものをゲーム装置にするなど意気込みを感じました。

島田:そうなんです。ソフトウェアをガンガン出しますよと、マジで取り組んでくださっている。

高松:ifLinkの仕組みはよくわかりました。キーワードはコミュニティですが、その性質が大切。島田さんはドイツのコミュニティを見ていろいろ考えていらっしゃるようです。次にドイツでのご経験も含めてお話しできればと思います。(つづく)

次回は ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」。島田さんのドイツでの体験談が飛び出します。

長電話対談 島田太郎×高松平藏
■製造業発のコミュニティは次の社会を作れるか?
→第1回 GAFAの本質はコミュニティ
第2回 ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」
第3回 新しい価値を生み出すコミュニティの条件
第4回 一国でしか通用しないアイデアはだめ (最終回)

ドイツ・エアランゲンからネットを使って対談。あたかも「長電話」の如く、長尺対談記事の一覧はこちら