クラブの衰退は「社会の衰退」でもある
ドイツ・バイエルン州のスポーツクラブのメンバー数がコロナ禍前の水準を上回り、過去最高の470万人に達したことがバイエルンスポーツ協会の発表によって明らかになった。ドイツ社会を見ていると、スポーツクラブの衰退は社会の衰退と捉えているようだ。
2024年1月28日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
同州内にはスポーツクラブが約 11,500あるが、クラブ加入者数がコロナ禍前の2019年には、460万人いた。2021年にはパンデミックの影響で430万人まで減少したが、昨年12月20日付けの発表によると、470万人にまで増加していることが明らかになった。
ドイツ全国にはスポーツクラブが約9万を数え、社会的なライフスタイルとして地域単位で発展してきた。それは自治体での数を見ると想像しやすいかもしれない。例えば筆者が住む人口11万人のエアランゲン市(バイエルン州)で100のクラブがある。人口2万人台の自治体でも40程度ある自治体もある。
スポーツクラブは個人の生活の質と、地域社会の繁栄に繋がっている
バイエルン州のクラブメンバーの構造を見ると、子供・若者のみならず、成人も多く、26歳以上が約60%を占める。加入者増加の理由のひとつが昨年7月から開始した州の健康促進プログラムだ。50歳以上を対象に、スポーツクラブに加入した際にバウチャーが発行される。健康の底上げに州が財政出動しているかたちだが、これにより医療費の削減にもつながると言える。
ところでWHO(世界保健機関)は健康を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」と定義している。スポーツクラブでの運動は心身の病気を予防するだけではなく、スポーツを通してメンバー間の交流が盛んになるため、「社会的な健康」を得て、生活の質が向上する。
さらに、こうした交流から、コミュニティの基本になる「We-ness(われわれ意識)」が芽生える可能性もある。そしてお互いの価値観や意見の交換から「下からのデモクラシー」の一端を担うことにもつながるとも考えられる。
コロナ禍の時期には、メンバー数の減少が深刻な問題になった。その一方でスポーツクラブが持つコミュニティとしての価値に対して、ドイツのユネスコ委員会は「スポーツクラブ文化」を無形文化遺産に登録し、クラブを「応援」した。スポーツクラブの衰退は、社会の衰退として位置付けられていたと言えるだろう。(了)
著書紹介(詳しくはこちら)
ドイツの「スポーツクラブ文化」について、たっぷり書きました。
執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。