「インターローカルサロン」という名前のオンラインサロンをこのほど主宰した。着想のひとつが18世紀におこった「読書クラブ」だった。

2020年8月9日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


多くの発言、様々な角度からの意見が出た


コロナ禍はデジタル化の推進役になった一面があるが、このサロンもそのひとつだろう。

念頭にあったのは18世紀のヨーロッパのあちらこちらで生まれた「読書クラブ」。啓蒙思想などを背景に、職業や身分、性別を超えて、ただ読書と議論を目的にした同好の士の集まりである。
もっとも実際は男性ばかりの集まりであったり、結果的に排除の装置になることもあった。が、いわゆる近代市民社会のひとつの原動力になったと理解している。

「超える」ということに焦点を当てると、現代はネットで空間をも超える集まりがネット上で実現する。オンラインサロンは21世紀版の読書クラブをイメージして開催したのだった。

参考: 嫌悪する人はまる人 、SNSブックチャレンジとは何だったのか?

結果的に20名足らずの出席で、2時間半。私が話題提供としての講演を行い、後は参加者の皆さんの発言が続く。想定以上に色々な角度から、そして、Zoomの会議システムという環境下にもかかわらず量的にも多かった。

テーマは「町のスポーツ・文化と外国人市民」。主宰した私も刺激を受けた。

参加者の中には、普段「先生」と呼び合う業界の方たちもいた。しかし、参加者はお互い職業もわからないし、初対面の人も多い。加えて読書クラブのような集まりと想定する限り、相手が18歳の学生であろうと60歳の医師であろうと、「さん付け」で呼び合うのが妥当だろう。

余談めくが、ドイツ社会を見ると、広い意味での「同僚」や、スポーツクラブのメンバーになると、「あなた」という社交称ではなく、お互い「お前、君」という親称を使う。その感覚に馴染んでしまうと、「先生、先生」とお互い呼び合う日本の各種業界を見ると、どうもお尻がムズムズするような感じを受けるのだ。私も「先生」と呼ばれることはあるが、これもまた同様にムズムズするのである。

もちろん、「先生」の呼称は日本の慣習であることは百も承知している。また二人称代りに「先生」が使われていることも理解している。

しかし、上記の理由から私はわりと精神的に近い関係が作れそうな「先生」には、最初から「さん付け」。場合によっては「さん付けでお付き合いをお願いしたい」と宣言している。


自宅に招ける程度の人数が最適か?


話を戻す。一般にサロンといっても思いの外難しい。人数はどのぐらいが良いのか? はたまた様々な属性の人に来て欲しいがテーマによって、参加者の属性が偏る可能性もある。それに技術的にはzoomで分科会のようなこともできるが、個人的にはあまり好きではない。

現時点では、自宅のリビングでパーティができる人数がちょうどよいと考えている。

というのも、サロンとは参加者が「発言」を提供し、これに対して過剰な気遣いをせず、同時に最低限の敬意を持ちながら賛成、反対、別の視点、類似の例や意見を重ねる。これによって参加者達が刺激を受ける機会だと思うからだ。それ以上でもそれ以下でもない。

こういうふうに考えると、自宅のパーティというのが規模の目安になるだろう。同じ室内にいるような感覚を保ちやすく、放っておいても参加者が発言を重ねていく状態に近づける人数だ。

また、今回に関して言えば、主宰者の私は参加者の関心や仕事をある程度知っている。「この意見に対して○○さんならどう思うか?」と発言を促せる範囲でもある。

インターローカルサロンのロゴも作った。ドイツで行っている研修プログラムのロゴを流用している。

ジャーナリズムとサロンの関係


最後にジャーナリストとしてのサロン開催の動機を整理しておこう。

ジャーナリズムは様々な機能や意義があるが、そのひとつが社会に対する問題提起である。強い表現をすれば「挑発」だ。私は日本で行う講演・講義を行う時、ドイツの取材や調査の成果を話すが、問題提起につながるような分析や解釈も加える。聞いた方それぞれが、何らかの問いを立てることにつながればと思っている。

そういう機会をドイツで集中的に行おうと考えたのが「インターローカルスクール」という研修プログラムだ。「研修」と呼んでいるが、私の集中講義とそれをベースに議論を重ねるプログラムで、市民のゼミ合宿といったところか。

ドイツで初めての読書クラブ生まれた年は諸説あるが、いずれにしても18世紀に誕生し、その後急激にに増加していったという。今日まで存続しているクラブもある。(絵の出典: Wikimedia Commons, Johann Peter Hasenclever、Lesegesellschaft、um 1843、Historisches Zentrum Wuppertal)


参加人数は10人ぐらいまででお願いしている。これぐらいが一同に話せる限界だからだ。そのせいか参加者の方たちはというと、帰るまで喋りまくっている。オンラインサロンはそのネット版といったところである。

もうひとつ、より直接的な動機もある。
コロナ禍の中、オンラインで講演を依頼いただいたり、実験的に講演の自主開催をしてみた。すると話が終わった後の質疑応答が結構賑やかなのである。あ、これってサロンじゃないか。それで、「インターローカルサロンをやってみよう」と考えたのであった。(了)


参加者のお一人鈴村裕輔さん(名城大准教授)がサロンについてのレポートを書いてくださった。記事はこちら

 執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。 最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)
一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら