15歳の読解力の弱さは、未来の民主主義の脆弱性という指摘がある。民主主義は常にバージョンアップが必要なものだが、この指摘に応えられるだろうか。

2021年5月6日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


OECD(経済協力開発機構)がすすめる生徒の学習到達度調査(PISA)2018の報告に、ドイツの15歳の若者のうち、「5人に一人の読解力が小学校レベルにしか達していない」と書かれているという。これはこれで問題だが、それに対する論説記事(2021年5月5日付 エアランゲン新聞)の着眼点が意義深い。

論説記事の趣旨は「読解力がなければデモクラシーがだめになる」というもの。
同調査によると、15歳の半数が「意見」と「事実」の区別ができない。論説記事はこの結果を「重要な警告」と述べる。そして、この問題に本当に興味を持つ人がおらず、「政治」は対策を講じていないと指摘する。

また、ポピュリストを反射的に追いかけるようなフォロアーにならないために、読解力でもって、自分自身の意見を形成することが必要であり、読解力が不十分な学生を放置しておくことは怠慢。デジタルメディアの読解力を高めるための学校教育の枠組みを改善すべきという。そうでなければデモクラシーを支える、成熟した市民が育たないと警鐘を鳴らしている。

今日、デモクラシーの危機が指摘されるが、デモクラシーに完成形はない。
むしろ常に理想状態を議論し、そのための中長期の対策が必要だ。20世紀のドイツを見るだけでも、失敗と改変があり、そして常に脆弱性を取り除こうという力が働いている。その結果、戦前のものに比べると堅牢になっている。(了)

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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。