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宮本:ヨーロッパの国々は、法的に必要な人数さえそろえば「どうぞ、どうぞ」という感じです。これらの制度により、人と人がつながって活動することが容易にできる。ここは大きな社会の仕組みの違いだと思います。


パリで体験、リアルな「自由」と「人権意識」


高松:人権とか自由、平等など、いわゆるヨーロッパ由来の価値概念がたくさんあります。これらは、あくまでもヨーロッパの文脈の中で練り上がってきたものなので、日本語に翻訳しても、その理解に限界があるのも当然です。そのあたり、どのように感じていらっしゃいますか?

宮本:フランスに来る前は、この国は移民の方が多く、治安がすごく悪いと思って結構警戒していたんですよ。ところが全然そうではなかった。移民の方も語学教育や文化教育を受け、社会の一部として溶け込んで共生しながら生活している。肌の色で差別なんかしませんし、差別という概念さえないのかなとさえ思うくらいです。人は人として尊厳があり、尊重されるということが、地下鉄や街中(まちなか)でも感じ取れます。そういう様子を見ると、日本の人権意識はまだまだなっていないなと感じます。

高松:なるほど。

宮本:以前、高松さんから言われて、実際見てそうだなと思ったのは「自由」についてです。欧州の個人の自由とは、人権的なものも含めて、ほかの人の自由を保障した上でのものです。これが定着している。

高松:はい。

宮本:日本の場合、個人の自由ばかりを言われます。しかし、逆に、人が行動しようとすると、目に見えない縛りがあったり、協調性がないと足を引っ張られたりしますが、フランスでは皆さん生き生きと活躍されています。


輸入概念としての「社会」という問題


高松:欧州でできてきた概念が日本語に翻訳され、普及する中で日本独自の文脈の意味合いができます。例えば「社会」という言葉。これも翻訳でヨーロッパと日本では、その意味が著しくずれることがあります。日本で独自にできた「社会人」を英語に直訳するとわかりますが、妙な言葉です。「人権」なんかももそうです。日本での講演でね、人権の話もちょっとしたところ、「人権とは社会的弱者のテーマの中で使われるもの」そういう理解をされていた。本来は原則的な価値で、もっと広いものです。

ウクライナ難民の宿泊施設の設営を行うボランティアたち。(2022年5月 ドイツ・エアランゲン市)

宮本:例えば政治の文脈で「社会」と言えば、フランスでは「社会民主主義」という概念のがありますが、日本では、「社会民主主義」という言葉がなくて、社会主義のようなイメージを持たれてしまう。社会という言葉を私たちは使うのですが、定義自体が確かに曖昧ですね。

高松:そうですね。先ほど、「自由」について話しましたが、「自由」という概念が単独で成立しているのではなく、平等などの概念と共に「社会」と密接な関係の中で成り立っています。だから、「(自由と平等がある)理想の社会」とか「(より自由で平等な)社会の進歩」という言葉が成り立つ。「社会」自体が規範概念になっているわけですね。フランスやドイツの自治体の「理念先行」という傾向ともよく合っていると思います。


「本当にフラットな組織」の実態を見た


高松:欧州のボランティアやNPOも、あくまでもヨーロッパの「社会」の中で成り立っています。

宮本:そうですね。ドイツのボランティア団体に話を聞いて驚いたのは、管理している人たちも実際の活動をしている人たちもみんな無報酬。また、皆同じ立場で、マネジメントに関わってない人でも経営に対して何でも言って良い。本当にフラットな組織運営を行っていたんです。

高松:日本は違いますか?

いきいきとボランティア活動する人たちを目の当たりにしたと述べる宮本さん(右)

宮本:日本では、組織ができると必ずといってもいい程、ヒエラルキーができて、「俺の言うことを聞け」と言うような方が出てくることが多い。あるいは、多数派と異なる意見を言う人がいるのを好まない。それで組織全体がギクシャクしてしまう。日本では、本当の意味でフラットな組織があまり見られない。

高松:なるほど、想像はできます。(苦笑)

宮本:ところが欧州に来て、本当にフラットな組織が存在していてびっくりしました。しかも、そういった組織に、若い人も新たに参加し持続的な取り組みとなっているのに驚きました。

高松:私のドイツでの観察や経験でも、おっしゃっているようなことが一般的ですね。

宮本:そこは先ほど高松さんおっしゃった規範概念としての社会とか、自由の解釈とか、そう言うものが社会の中で共有化されていると言うことでしょう。それにより、ボランティアとして活動されている皆さんが、生き生きされてるんですね。

(次回につづく)

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高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら
ドイツの地方都市の質はどのようにして作られているのか?
エアランゲン市をくまなく取材し、書いています。