コラム スタートレックからの洞察 vol.1

2024年7月1 日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
ChatGPTを初めて使ったとき、スタートレックの船のコンピューターとよく似ていると感じた方も多いのではないだろうか?
シリーズ初期(1966-69年)のコンピューターは今見ると稚拙だが、『新スタートレック』(1987-94年)以降、AI的な存在として描かれるようになった。『スタートレック:ディスカバリー』(2017-24年)では、コンピューターが人格を持つ「ゾーラ」として登場する(設定舞台は32世紀)。
このようにシリーズで登場するコンピューターのスペックは制作当時の科学力、舞台設定による影響などがあるが、本稿では、船のコンピューターをAIとみなし、スタートレックの艦隊クルーたちはどう使いこなしているかを見る。
例えば、未知の宇宙現象が発生した時、船のコンピューターと対話しながら、原因を絞り込んでいく。彼らはコンピューターの回答を一つの材料として、自らの経験や知識、直感を重ねて最終判断を下す。
スタートレックのエピソードでは、こうしたシーンが度々描かれる。例えば、映画「スタートレック ジェネレーションズ」(1994年)では宇宙を移動する、ある現象の進路を追跡するために、巨大な星図を映された船内の一室で、対話式でシームレスで直感的なやり取りが行われ、問題の解決を図ろうとする。
ここで重要なのはクルーの資質だ。
彼らは高度な知識と豊富な経験を持ち、AIの回答を客観的かつ批判的に捉える力がある。だからAIを使いこなせるのだ。また、彼らはAIの論理に従うだけでなく、自分の洞察や勘を優先することもある。そこにストーリーとしての面白さがある。
ChatGPTが普及してから、多くの人が、問いを立てる力と、AIの回答に対する判断力の重要性に気づいた。スタートレックの描写から導き出せるのは、クルーが持つこれらの能力をどのように教育に取り入れられるを示唆している。
一方、日本に目を向けると、社会や教育では、論理性や批判能力を積極的に修得すべきという考え方は弱い。そして、こういう批判は久しくある。しかしAIが標準的な技術になる時代になって、この課題の推進はますます重要になっている。(了)
補足:1年ほど前に同内容の短文をSNSに投稿した。しかし現在でもまだ有効に思える話だと思い、コラム化した。

高松平藏 (たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。
著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」「ドイツの学校にはなぜ『部活』がないのか」など。当サイトの運営者。詳細こちら