シーグフリード・バライス博士(エアランゲン市市長)
ドイツは連邦制で、歴史的にも地方分権の国である。そのため地方に目を転じると自治体の独立性が高い。エアランゲン市はバイエルン州の北部にある人口10万人の都市で、隣接するニュルンベルク(50万人)、フュルト(11万人)と連携しながら医療技術をコアにすえた経済政策で成功している。そんな都市の首長はどのような考えをもって市政を運営しているのだろうか。市長のバライス博士に話をきいた。
2008年1月22日 取材・構成 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
市長とは
町の歴史すら変えることができる
高松:市長の仕事をどのように考えていますか?
シーグフリード・バライス博士(以下 バライス):連邦基本法(憲法に相当)によると、市長とはかなり強いポジションにあるといえます。市議会の議長であり、市の代表、そして行政の長です。
シュトゥットガルトのマンフレット・ロンメル元市長は南ドイツの市長とは一人の人間が連邦の総理大臣と大統領、連邦議会の議長をしているようなものだ、というふうに言っている。それぐらい強い立場なので、ひとつの街の歴史すら変えることができる。つまり町を作っていくことが本当にできるということですね。
<プロフィール>
シーグフリード・バライス博士
ドイツ・エアランゲン(バイエルン州)の市長。
1953年ニュルンベルクに生まれる。エアランゲン=ニュルンベルク大学で経済学を修める。研究所やシーメンス社勤務を経てフュルト近郊の自治体の市議。1988年からエアランゲンの経済分野の責任者。1996年から市長に。2002年の選挙を経て2期務める。
高松:昔は市長といえは“名士のトップ”という傾向がありましたが、現在はちがいます。市内においては多数の価値観や議論があります。
バライス:そうですね。市民全員の市長なので、市長自身がイデオロギーや特定の価値観を持っていても皆の声に耳を傾けなければならない。エアランゲンのモットー、「伝統からのオープン」が大切です。
エアランゲンには約140カ国から来た人々が住んでいる。様々な宗教や哲学に対してもオープンであるべきです。しかし他人の自由を侵す場合は制限がある。そういうことに対しては政治がきちんとブレーキをかけねばならない。たとえば若者がアルコールを飲んで第三者のモノを破壊するという行為。お酒を飲むのはいいが、破壊行為には対処せねばならないというわけです。
街の代表
という立場
高松:市の外向けにはどのような役割がありますか。
バライス:教会やフェライン(協会、非営利法人)などに対しては市の代表として考えを述べなければなりません。またバイエルン州では最近、州首相が変わりましたが、市の希望をきちんと表明しなければなりません。たとえば当市にはエアランゲン=ニュルンベルク大学がありますが、現在新しい施設や大学病院の新病棟が必要です。こういったことに関する支援を州政府に要求しなければならない。
エアランゲンの立場を州政府だけではなく、連邦政府に対しても強調しなければなりません。年に1回、市長たちが連邦首相と会見する機会があります。私も15人程度の市長グループの一員としてメルケル首相と会談しました。
全国自治体で構成する「ドイツ自治体会議」にいたってはもっと頻繁に連邦側と会って、それぞれの省とも定期的に話し合っている。自治体は政治について連邦政府と同レベルで話し合えるということが重要です。
高松:私の理解ではドイツの自治体には近隣の自治体との合併という発想はほとんどない。それぞれの独立は維持して連携しながらスケールメリットや効率化を計るケースが多い。エアランゲンも隣接する都市とのつながりは強いでね。
バライス:昔から仲はよかったんですよ。ニュルンベルク、シュワバッハ、フュルトといった隣接都市とは5年前から行政の中で直接市民と関係のないところだけ統一しました。
高松:エアランゲンはより広範囲の近隣自治体と連携しています。また医療都市という戦略をたてており、近隣自治体の中でも研究・開発では中核を担っています。
バライス:2005年に近隣12都市と21郡が連携し、「メトロポリタン地域 ニュルンベルク」を構築しました。人口規模は300万人を超える規模になります。
メトロポリタン地域の代表は今日(取材当日)もブリュッセルへ行っています。もちろん地方の代表としていきますが、研究開発の分野ではエアランゲンの優位性を強調します。「メトロポリタン地域 ニュルンベルク」はEUの中でも存在感のある地域になると確信しています。
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