日本で「迷惑施設」と呼ばれるものが、コペンハーゲンは市民のスポーツ・余暇の場になっている。

コペンハーゲンの「マルチ機能」のインフラである「コペンヒル(コペンハーゲンの丘)」をこのほど訪ねる機会があった。確かにユニークな施設なのだが、むしろ、こういうアイデアを考える人材がいて、それを支持する意思決定者たちがいるという点が、この都市の凄さだと思う。


緑の丘と煙突から立ち上る白い煙 – この組み合わせは奇妙に見える。ここは 「コペンヒル」と言う廃棄物焼却発電の施設だ。だが、同時に市民がスポーツを楽しんだり、余暇を過ごせる「マルチ機能」のインフラストラクチャーになっている。巨大な建造物だが、施設全体を見ると、それが野心的かつ創造的で、相乗効果の高いものであることがわかる。

外観。こういう施設はつい「視察」をしたくなる組織や自治体があると思うが、あまり役に立たないと思う。問うべきは「アイデア」を出せる人材がいるかどうか、そしてそれを支持する意思決定者がいるかどうかという点だ
上空からの写真。(Photo: Max Mestour, Amelie Louys)

では、いったいコペンヒルとは何だろうか?主に4つの機能で説明ができる。

1. コペンハーゲンのカーボンニュートラル計画の一環。
2025年までに、コペンハーゲンは世界初のカーボンニュートラルな首都のひとつになるという計画があるが、その一部として作られた。

2. 廃棄物焼却・発電・都市暖房のための「装置」
廃棄物を焼却して電力と地域暖房を生産する廃棄物焼却発電所としての機能がある。同施設によると年間3万世帯分の電力、そして72,000世帯分のセントラルヒーティングをコペンハーゲン市に供給。

3. 市民のスポーツ・余暇の場
スキー場、クライミングウォール、屋上にハイキングルートを備えている。筆者が訪問したときも、家族連れ、中高年夫婦、若者のグループ、スポーツ愛好家たちが次々とやってきた。また、会議室やカフェ、バー、スキー用具のレンタルストアもある。全長450メートルのスキー・ゲレンデがあり、傾斜率は30%以上と世界でも急勾配だそうだ。ゲレンデの上部は上級者向け、中・下部は初心者や子供向け。

4. コペンハーゲンの新しいランドマーク・観光地
遠くからでも目立つという意味で新たなランドマークである。また都市の中心地からでも旅行者はレンタル自転車でも移動できる。実際筆者も自転車で移動した。

エレベーターもあるが、登るのも楽しい。85mの高さ。

コペンハーゲンの凄さとは何か?


井澤知旦さんとの対談「公共空間の使い方で都市の質が決まる」(全4回)

この施設、筆者は名古屋学院大名誉教授で都市計画が専門の井澤知旦さんから、「高松さん、コペンハーゲンにこんなところがある。面白いでしょ」と聞いていた。チャンスがあれば行こうと思っていたが、やっと実現した形だ。

ゴミ焼却場の類は「迷惑施設」と日本ではされるが、都市の中心地からそう離れておらず、マルチ機能が付されている。

これは都市とインフラを考える発想のヒントになっているが、もう一歩踏み込むとコペンハーゲン全体で、カーボンニュートラルというあらゆる分野を包括する目標があるからこそ、出てきたアイデアのように思えてならない。というのも「カーボンニュートラルに繋がるなら、どんなものにしようがいいわけでしょ?」という発想が可能だからだ。

それから筆者は、いい意味でも悪い意味でも「とんでもないもの」を見つけたとき、その企画会議の類を想像してみることがある。例えば、あなたの町で野心的で創造性豊かなアイデアが出たとき、意思決定者たちの反応はどのようなものになるだろうか?アイデアを理解した上での反対ならば、まだ議論はできる。そして、より建設的なものになる可能性もある。しかしアイデアそのものが理解されないで反対となると、どうしようもない。

ちなみにコペンハーゲンは人口約65万人。日本で言えば静岡市ぐらいの人口規模である。欧州では質の高い都市が多いが、コペンハーゲンは噂に違わず、ハイクラスの都市だ。そしてこういうアイデアを出せるリソース(人材)があり、このアイデアを支持する意思決定者たちがいて、予算をつけるなり資金調達の類ができる。これが、この都市の凄さだと思う。(了)

遠くからでも煙と煙突が目立つので「工場?」と思わせるが、工場にしてはおしゃれ。
「地上」のカフェ。通常「迷惑施設」とされるゴミ焼却場に「ゆっくりできるカフェがある」というシチュエーションを想像できるだろうか?ここではむしろカフェがない方が違和感がある。

高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら
ドイツの地方都市の質はどのようにして作られているのか?
エアランゲン市をくまなく取材し、書いています。


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。