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高松:個人主義というのは戦後の日本を語るキーワードですが、個人主義には「他の個人との関係」という課題や、「自由の限界」という議論が含まれている。しかし、そこはほとんど顧みられなかった。

ドイツを見ると「連帯」や「寛容」という概念を個人主義と関連付けています。これが市民からのイニシアティブが出てくる背景であり、社会的タフネスをつくっている。一方、日本でも行政がNPOなどと一緒に取り組む「協働」という言葉もよく使われるようになりました。

国定:商店街連合会や自治会会長連合会の会長を入れるというようなものですけど、形としてはやりますね。ただ彼らはドイツのそれとは違って、本当に充て職です。最後は政治行政が覚悟を決めないといけないのが日本です。

高松:なるほど。

国定:日本って、皆さんそれぞれ色々なことを言いますが、結局、政治行政に丸投げしているのが現実です。戦後とはそういう時代です。権利を主張する以上は義務も果たすべきですが、そこはずっとないがしろにされてきました。そのため、本来、ムラ社会の仕事であるお祭りに関わることまで行政がしています。

高松:え、そうなんですか?

国定:補助金を出しています。全部自分たちでやり切らない(やり切れない)面があります。 それで「金がなくなったから出してくれ」と行政に頼る。ドイツにおける中間領域で頑張っているところは、日本の場合、完全に政治行政の世界が覆っているのです。

高松:それで、現状では「行政がリードしていくべし」という考えに至るわけですか?

国定:はい。結果的に良くはないかもしれませんけど、現時点ではドイツのような形は諦める。でも、90%がルーチンワークという行政の仕事ですが、三条市は残りの10%の付加価値を付ける部分について「一緒にやろう」という民間の仲間は確かに存在します。これは大きいです。


「安全装置なき個人主義」に気付いた若い世代


高松:Youtube動画で一緒に出演されていた方でニート問題に取り組んでいる結城靖博さんが、なんでもかんでも「自己責任にしてしまうのは、もう古い」という話をされていたことがとても印象的でした。

国定:はい、そういう発言ありましたね。

高松:理念的な話をすると、ドイツで「福祉」という方は避けられるところがある。その理由はナチス時代によく使われたという事情もありますが、社会保障の原理が「連帯」という概念なんです。

国定:どう違いますか?

高松:「福祉」は国が上からカバーする発想です。それに対して、例えばある個人が怪我で働けなくなったときに、自分ではどうすることもできない。そこで必要なのが社会保障ですが、原理的には他の個人たちで助け合う「連帯」。
言い換えるならば、個人主義の限界に対する解決策であり、個人主義の団結原理でもあります。こういったことがほとんど日本で議論されてこなかった。

国定:なるほど。

高松:なんでもかんでも「自己責任」にされてしまう日本は、いわば安全装置なき個人主義になっているように見えます。それゆえに、結城さんの「自己責任はもう古い」という発言は、日本の変化として興味深いものでした。

国定:結城さんは1984年生まれです。私は東日本大震災が劇的に日本の社会を変えたと思っています。この時期に青春時代を過ごしているかどうかで、世代の意識というか価値観に転換点があるように思えるのです。絆という言葉に代表される価値観が東日本大震災で登場しました。

高松:「絆」はたしかにカギになる概念ですね。ただ、ここで私の理解でいえば、「絆」は生まれた時からつながっている「親子の絆」など、所与の固定的なつながりを示す概念。そういう意味では「絆」はムラ社会的な意味の地縁血縁の人間関係がベースです。連帯と少し違う。

高松(右)とオンラインで対談。「連帯的な発想を持つ若い世代が世の中の主役になる。期待したい」と述べる国定勇人さん(左)。


国定:なるほど。その整理に基づくと、大震災を体験している人たちの中にあるのは「絆」よりも「連帯」に近いですね。自然にそういう事を発想し個人主義を凌駕している。それより上の世代となると、私なども含めて超個人主義で育ってしまいました。

高松:そうですね。この連帯が発展していくと、われわれ意識が伴う「公共空間」の創出につながる可能性がある。

国定:ところで、現在、私は毎日250軒程度の家を回って市民の方と対話を行っています。それで、呼び鈴を押しても玄関先に出てこないのが私達の世代ぐらいから。ところが、20代、30代ぐらいはドアを開けてくれるのです。私のことが好きか嫌いか、どう思っているかは分かりませんが、少なくとも礼儀正しく、常識ある対応をして下さる。他人とのつながりがごく自然という印象があります。

高松:そういう振る舞いは、赤の他人とのつながりという意味の「連帯」の素地として映りますね。

国定:日本の成長には地方の繁栄がカギです。そう考えると、連帯的な発想を持つ若い世代がその世の中の主役にどんどんなって行くと思います。その実感もあるので、期待したいですね。ただね・・・

高松:・・・はい、なんでしょう?

国定:自分ももう古い世代になったかなと思うことがあります。彼らが言っていることを理解はするけど、納得がいかない時もある。(苦笑)

高松:笑。ジェネレーションギャップはいつの世でもありますからね。世代間連帯をどう作るか、これが次の課題ということにしておきましょう。 (第5回につづく

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第5回  世界に伍する一流の地方都市にするには?  に続きます。

全6回 長電話対談 国定勇人×高松平藏
■町は首長次第で本当に変わるのか?■
第1回 志ある市民10人と 町を俯瞰する市長
第2回 市長は大統領よりも力がある
第3回 日本の公務員がジェネラリスト指向である理由
▶ 第4回 地方における公共性と個人主義について考えた

第5回 世界に伍する一流の地方都市にするには?
第6回 文化政策で地方都市を磨け
目次