日本の公務員がジェネラリスト指向である理由
長電話対談
国定勇人(前三条市長)
×
高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
ドイツの地方都市の発展を見ていると、市長の役割もかなり大きい。では日本ではどうなのだろう?2020年に現職を退き、「日々の地方のリアリティ」から少し距離を取れる状況になった前三条市の市長、国定勇人さんと地方自治体における首長の役割について話した。第3回目公務員制度について。ドイツの行政は専門家集団の傾向が強く日本と正反対。市長が「プロデューサー」のような役割になる理由と関係があるようです。(対談日 2021年4月12日)
※対談当時の状況をもとにすすめています。
全6回 長電話対談 国定勇人×高松平藏
■町は首長次第で本当に変わるのか?■
第1回 志ある市民10人と 町を俯瞰する市長
第2回 市長は大統領よりも力がある
▶ 第3回 日本の公務員がジェネラリスト指向である理由
第4回 地方における公共性と個人主義について考えた
第5回 世界に伍する一流の地方都市にするには?
第6回 文化政策で地方都市を磨け
目次
プロデューサー意識が出てくる理由
高松:市長を辞めた後、様々な取り組みを一緒にされた市民の方々と、その活動について語る動画をユーチューブにアップされています。いくつか視聴して受けた印象が、市長という仕事はプロデューサーのような能力が必要だなということでした。
国定:私もそうだと思います。でも就任当初はそんなことを思う暇もないぐらい大変でした。選挙に出た時は有権者の皆さんから「お前はどんなビジョンを持っているんだ」「どんな街にしたいんだ」と聞かれました。しかし最初の選挙の時は、まだまだ煮詰まってなかったというのが正直なところです。
国定 勇人(くにさだ いさと)
2003年に総務省から新潟県三条市に出向。2006年に一旦総務省に戻るが、三条市長選に立候補し、当選。2020年9月に辞職。現在、衆院選立候補に向けて準備中。1972年東京都千代田区神田神保町生まれ。
オフィシャルブログ:この地に尽くす!〜国定勇人(くにさだいさと)の日記〜
高松:なるほど。そりゃそうかもしれませんね。いつから「プロデューサー」のような発想が出てきましたか?
国定:市長の椅子がそう思わせるし、そうさせます。椅子に着いてみると「俺以外、誰が(市のことを)考えられるの?」ってなっちゃうわけです。
私がいて副市長がいる。そこからは、総務部、福祉保健部、市民部、経済部、教育委員会というふうに縦割りになるわけですが、それぞれの部長に総合プロデュースを求めても無理な話なのです。三条市役所には1000人近くの職員がいますが、本当に総合的に考えられる部署といえば政策推進課ぐらいしかありません。
職員が考える「付加価値」が問題
高松:しばしば批判されることですが、行政でしか通じない常識が、普通にまかり通っているようなことがありますね。
国定:はい。
高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
昨年は次の2冊を出版。「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)、「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」(2020年11月)。前者はスポーツ・健康の観点からみた都市計画や地域経済、行政・NPOの協力体制について。後者はドイツの日常的なコミュニティ「スポーツクラブ」が都市社会にどのように影響しているかについて書いている。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら。
高松:市長に立候補された時と、市長を辞めた今だと、そういう「常識」に対する見方や考え方が変わったと思うのですが、いかがですか?
国定:まず、私も元々その公務員でした。
高松:総務省ご出身でしたね。
国定:はい。それでね、公務員から市長になってみると、見える世界が随分違うなと。
高松:何が違いますか?
国定:どっち向いて仕事しているかということです。職員はプロフェッショナルとして自分の仕事に対して誇りを持ってやっています。しかし、多くの職員が、かつての私もそうでしたけれども、「その仕事とはそもそも何なのか?」というところに気付きが至らない。
高松:公務員は「公僕」といわれることがあります。
国定: そうですね。仕事のほとんどは市民のためです。ですから、新しい仕事をしようとする時に、本当にスムーズに回る政策なのか、市民にとってストレスフリーでできるものなのか。といった視点が必要です。しかし、職員はある種のマニアックな方向に向かってしまいます。でも、それは職員なりに付加価値を付けているつもりなのです。
次ページ 行政職員のマニアックな仕事は国と地方の関係にも理由がある