市街地活性化の取り組み「三条マルシェ」(新潟県三条市、人口10万人)を訪ねる機会を得た。「賑わい空間」の近代化が見てとれ、そこに可能性が見いだせる。
2014年8 月8日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
三条マルシェ
昨年、同市で講演をする機会を得たが、その時市内で「三条マルシェ(市場)」なる取り組みがなされていることを知った。簡単にいえば、市街地に露天を並べた1日限りの歩行者天国である。
2010年から始められたもので、開催場所や規模もその時々で異なるが、年間5-7回程度行われ、訪問者数もかなり多い。そのため市街地活性化プログラムとしての評判も高く、視察などもけっこうあるようだ。私もぜひ一度見たいと思い、一時帰国したタイミングで7月20日に訪問した。
『会場』である通りは、そこは縁日のようである。日本の『賑わい』のイメージとしては、ある意味正統派ともいえる光景で、足踏み入れると一発で『ハレ』の日モードの気分になる。そんな空間だ。
楽しい空間、お寺の境内とも連結
三条マルシェは一見、縁日のようだが、よく見ると各テントが緑に統一されている。出店者は広く募集され、私が訪ねた日はブラジル料理や鮎の塩焼き、マッサージなどのブースをはじめ、高校生による出店もあった。過去の記録を見ると、音楽やダンスのプログラムが展開され、警察が自らの活動をPRするケースもある。
歩行者天国になっている通りから、三条別院という寺院と連結しているのも面白い。同寺院は地元で“御坊さま”と親しまれている寺院だが、広い境内でも出店や音楽などのパフォーマンスが行われている。ドイツの都市は歴史的にいうと教会の前に広場があり、そこで市が開かれていたことが多い。三条市と視覚的なイメージは異なるが、ドイツの広場を彷彿とさせる。
脱地縁から再構築する公共空間
ところで、この手の催しには通常、必ずといってよいほど、地元の『テキヤさん』が出てくる。ハレの場をもり立てる「地縁」の人々だ。だが、三条マルシェではそういう地縁の人たちを束ねる「しかるべき人」との交渉で、参加を遠慮してもらった。それで縁日とは似て非なる雰囲気ができているのだ。
近代化のひとつの定義に、「地縁・血縁からの離脱」ということがあげられるかと思うが、三条マルシェはいわば「賑わい空間」の近代化に成功したといえる。これによって、自由意思による出店参加が可能になり、時には商店街で商売を検討している人が三条マルシェで「お試し」の出店が可能になるなど、様々な派生プログラムや、他のプログラムとの関連性を実現する近代的な公共空間と化している。
加えて寺院の境内は宗教を背景にした伝統的な公共空間であるがこれを近代的な公共空間となった三条マルシェとうまく連結したかたちだ。
市場価値と社会的価値
ドイツの都市の構造からいえば、市街地は商売をする市場価値以外に文化や歴史、福祉、社交などの重厚な『社会的価値』を備えている。これが公共空間でのデモをはじめとする、様々な議論がおこることにつながりやすい。
一方日本はハレの日には地縁の人たちが盛り立て、戦後はどちらかといえば市場価値と自動車交通のみを重視する傾向があった。
ここにきて三条マルシェは市場価値と社会的価値が重なる近代的な公共空間を一時的にしろ作り出すことに成功している。これに恒常性を持たせることで、質の高い地方都市の中核を作っていけるように思う。(了)
<リンク>
- 三条マルシェ
- 地元ニュースサイト、ケンオー・ドットコムの当日のニュース
20日の三条マルシェは3連休の中日のためか人出は1万8,500人にとどまるも来場者は「凉(すず)マルシェ」を満喫
- 三条マルシェ実行委員長 加藤はと子さんの関連記事(当時副委員長)
三条市のSWCに学ぼうと兵庫県三木市の藪本市長が来条、三条マルシェ実行委員会副実行委員長の加藤はと子さんに話を聞く
- 当日の三条マルシェについて書かれた三条市市長・国定勇人さんのブログ
高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら)
ドイツの自治体における地方紙は?情報流通は?
執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。