口頭試験もあるドイツ柔道。このやり方にドイツらしさが見いだせる。

ドイツで柔道を始めた私だが、このたび、昇段試験を受けた。そこに見いだせるドイツらしさを書きとどめておきたい。

2022年12月29日 高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


ドイツ柔道の級システム。初心者から上級者まで一緒に行うトレーニングなどは、それぞれつける帯が異なるので、とてもカラフルだ。

ドイツの柔道も初心者は白帯、だが「9級」である。だから初段以上の人となると、たいていは10年以上のキャリアの持ち主だ。各昇級試験では、試験官が課題の技などの習得を見る。

余談ながら健康維持の目的でドイツで柔道を始めた私は、日本の事情を知らなかった。初めての昇級試験を受けたころ、日本にはもっと厳格なテストが全国共通で行われていると思いこんでいた。しかし基準がけっこう曖昧で驚いた。

ひるがえって昇段試験となると課題は増える。形、技術(立技・寝技)、そして着目したいのが、試験官との口頭試験である。初段では自分の「得意技」の動きについて細かい留意点と、そのためのトレーニング方法などについて説明せねばならない。そして説明の途中で試験官からの質問もとんでくる。

二段、三段と上の昇段試験になるほど口頭でのやり取りが増える。試験の様子を遠目で見ると、試験官と受験者が丁々発止の議論を行っているようにすら見える。以前、昇段試験(確か4段だった)を受けるという知人から、柔道にまつわる歴史で出てくる名詞の正しい発音について教えてほしいと請われたこともあった。そういうことも口頭試験で扱われるようだ。

長年活躍した柔道家に6段が授与されたことと、今年の「昇段者」を簡単に紹介した地方紙の「スポーツ欄」の記事。筆者のことも紹介されている。(2022年12月28日付 エアランガーナッハリヒテン紙)

これで思い出したのが、高校の卒業試験に相当する大学入学資格アビトゥアの試験だ。試験問題自体が難関で、長時間かかるものだが、筆記試験以外に口頭試験もある。自分が知っていることを駆使して、全力で試験官の教諭とやり取りする。これで何をどのぐらい理解しているかがわかるというものである。

同様のことは修士号、博士号といった学位取得でも見られるが、こういうやり方は、さらにたどると、ギリシャ時代の哲学の世界につながるようにも思う。そして、柔道の昇段試験を設計される時にも適用されたのではないか。

私は雑誌「近代JUDO」(ベースボール・マガジン社)に取材・調査も重ねて10年間コラムを書いた。柔道がドイツ現地の文化の影響を受けながら成り立っている点に興味を持ったからだ。昇段試験でもドイツらしさを見出したかたちだ。(了)


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柔道もまた、スポーツクラブで行われている。

都市の魅力を高めるスポーツ
スポーツは地域のコミュニティを作る

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。