産業構造の変化で既存の経済が廃れる一方で、新しい活動も活発化するのが必然。その中でどのように地域は取り組むべきか?

【蔵出し記事】自動車産業は電動モビリティへ移行しつつあるが、言い換えれば産業界の大きな変革期に入ってきている。それに伴走するかのように、ドイツ中南部の地域連携「ニュルンベルク大都市圏」で自動車産業の振興と支援を行う動きが活発化している。

(雑誌『市政』2023年6月号寄稿分を修正 時系列は当時のもの)

2023年9月11日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


ほぼハンガリーと同じGDPの「大都市圏」


「ニュルンベルク大都市圏」とはバイエルン州の第二の都市、ニュルンベルク市周辺の23の郡部と、郡独立都市と呼ばれる規模が比較的大きい11の自治体のネットワークだ。今回はここが舞台である。本題に入るまえに「大都市圏」とは何かを整理しておこう。

ドイツの自治体は日本に比べて相対的に人口規模が小さい。それでいて連邦制の国だけあって、地方分権傾向が強いので、各自治体の自律性も高い。また、日本の感覚から言えば「小都市」であっても雇用吸収力のある自治体も多い。各国が独立しながら加盟しているEU(欧州連合)の自治体版のようなイメージを持つと理解しやすいだろう。

さて、ニュルンベルク大都市圏を見ると、最も人口規模が大きい郡独立都市はニュルンベルク市だが、「第二の州都」というわりに人口53万人で、それほど規模は大きくない。続く都市も10万人クラスが二つ。あとはそれ以下。最も少ないのがコーブルク市は約4万1000人だ。しかし、それらを合わせると360万人、横浜市程度の規模になる。

次に経済分野を見てみよう。同大都市圏のGDPは年間1480億ユーロで、ほぼハンガリー(人口約670万人)と同程度。「輸出」によるものが約50%を占める。また、この域内には大学や研究機関は約70を数える。そして15万社の企業で130万人が働いている。

この「ニュルンベルク大都市圏」の運営の中心になっているのが、地区議員及び首長からなる議会だ。民主的に進められ「共に成長する」ということをモットーにしている。

ニュルンベルクはかつてヨーロッパの東西を結ぶ要衝として、経済が栄えた。同地方を管轄する商工会議所の建物には往年の商人の姿が描かれている。

EV車の増加で倒産も


さて、ニュルンベルク大都市圏には実は自動車メーカーはない。しかし、約500社の中小・大手の自動車部品サプライヤーがあり、約10万人が勤務しており、大都市圏の大きな経済基盤だ。

しかし昨今の電動モビリティへの移行から、自動車産業の構造自体が変化。これに伴い工場の閉鎖、倒産なども起きている。それだけに自動車部品のサプライヤー業界はどのように変われば良いのか。これが現在の最大の問いである。これに対して、ニュルンベルク大都市圏では連邦経済気候保護省から660万ユーロの資金提供を受け、「トランスフォームEMN」というプロジェクトが組まれている。

3月29日、ニュルンベルクの中心部で行われたのが「未来のワークショップ 動きと展望− 自動車部品供給業界はどう変わる?」。数名による講演と分科会による構成で、経済・学術・政治の分野から約350人が参加した。

最初のスピーカーの一人、大都市圏インフラフォーラムのマネジングディレクター、ミヒャエル・フラース博士は「デジタル化・持続可能性が自動車産業の変革のドライバーだ。同時に熟練労働者不足や高いエネルギーコストなどの問題もあるが、このワークショップの課題設定は正しい。大都市圏の付加価値と雇用確保のためには技術の最先端に立ち続けたい」と述べた。

ニュルンベルク中心部の歴史的建造物の中で行われたスピーチ。歴史を顧みることで、時代の変化を冷静かつ楽観的に捉えることができるだろう。

大都市圏の中に本社をもつ、自動車部品サプライヤー大手シェフラー社の技術センター長、ティム・ホーゼンフェルト教授は、「ビジネスと研究が互いに持続的に発展する革新的技術のための地域ネットワークが重要」と強調した。

医療関係の分科会では、専門メッセ・メドテックライフの責任者クリストファー・ボスさんが「自動車部品メーカーの81%が多角化を計画している。医療技術は利益率が高いので、ここではエキサイティング。企業にとっては多くの可能性があり、同時にスタートアップ企業がこの地域でチャンスを生み出している」と述べた。


歴史を省みると楽観的になれる


印象に残ったのがアンスバッハ市のトーマス・デフナー市長とアンベルク・シュルツバッハ郡の議員、リヒャルト・ライシンガー氏の対談。

その中で、「地域の歴史を省みると、浮き沈みがあり、変化してきた。これを鑑みると、(今日の自動車産業の変化に対しても)楽観的だ。必要なのはマインドリセット。発想をガラリと変えるべき」という発言があった。

技術革新が一つの産業を廃れさせてしまうことと、新しい経済活動が活発化するのはコインの裏表だ。だからこそ、地域内の資源としての企業、大学などの研究機関の交流を活発化し、新しい競争力を作り出す必要性がある。

それを地方の行政・政治が単独で行うのではなく、広域で働きかけることは理にかなっている。同時にすでに住んでいる人たちや、外からやってくる研究者や専門家などのために生活の質の高い環境を整備することも大切になってくる。同大都市圏は産業構造の変化に対し、適応しようとしている。(了)


高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら
ドイツの地方都市は経済・社会・環境の結晶性の高さが魅力だ


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。