写真=手に持っているのが連載最終回の2021年12月号

「近代JUDO」(ベースボールマガジン社)でドイツの柔道についてのコラム執筆を始めたのが2011年。当初は「10回程度で」という話だったが、結局10年続いた。所感を記しておきたい。

2021年11月25日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


柔道は東アジア発祥のエスニックな身体文化に基づいた格闘技だ。武士の接近戦の技術を嘉納治五郎が教育体系に換骨奪胎した。そして世界に広がり、現地の文化の影響を受けながら成り立っている。同時に試合のための競技としては常にスポーツとして構想されている。

連載では、ドイツにおける「現地化」がどうなっているのかを主眼としていた。
その様子を一言でいえば、彼の国の社会で求められる「生活の質」「心身と社会的な健康」の追求とうまくアレンジされているのが見いだせた。そのため、子供向けの柔道の動きを組み合わせた遊びの手法や、中高年向けのトレーニングといったものも、すでに充実していた。

また、「困っている赤の他人」を自主的に手助けする「連帯」という概念がドイツ社会には流れている。これも柔道に適用されているため、外国人や難民に対する取り組みもあったし、私の知る範囲では障害者に対してもごく普通に一緒にトレーニングが行われている。

すなわち「柔道の社会化」が気負うことなく、高いレベルで実現しているのだった。

ベースボール・マガジン社の前で岩佐直人編集長(右)と。撮影は井田新輔カメラマン。(2013年8月28日)


連載を始めて、日本の柔道も横目で見るようになったが、ドイツとは異なる昇級テストの方法などに驚いた。また勝利に対する病的なこだわりを背景に、体罰問題や死亡・重篤な怪我の発生という、どうしようもない出来事がなくならず、呆れ返るばかりだ。

しかし、一方で教育体系として新たな柔道を構想する議論や実践も出てきた。これが、この10年の「日本の柔道」に見られた変化だろう。

ところで、私は若い頃から日本の「体育会系」文化に違和感を持っていたが、個人的にはそれを解きほぐして、解明していく10年でもあった。そして、連載を通して得た知見や視座は、拙著「ドイツのスポーツ都市」(学芸出版)、「ドイツの学校にはなぜ『部活』がないのか」(晃洋書房)にも一部反映している。

「近代JUDO」の編集部の皆さん、読者の皆さん、ありがとうございました。(了)


著書紹介(詳しくはこちら
「都市の発展」という視点から、スポーツがどのように展開されているのか?

都市の魅力を高めるスポーツ
スポーツは地域のコミュニティを作る

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。