クリスマスシーズン、町に設えられるユダヤ教の燭台。これは共存のシグナルだ。

クリスマスシーズンになると、ドイツの町の中心市街地は、電飾が設えられ、広場などでクリスマス市場が開かれる。筆者が住む町ではユダヤ教の年中行事の燭台も用意される。

2022年12月22日 高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


写真はエアランゲン市(人口11万人、バイエルン州)の市街地の広場のひとつ。一番奥に見えるのがプロテスタント系の教会、そしてクリスマスツリー、一番手前がユダヤ教のお祭り「ハヌカ(ウィキペディアによる説明)」に用いる燭台だ。毎年市内のユダヤ教コミュニティが市長とともに明かりをつける。

燭台がたつこの光景、わりと気に入っている。そして大切だと思う。

ドイツで私は「外国人」である。個人的にはまわりにいるのは寛容で礼節をわきまえた人がほとんどだ。それにしても、この国でも外国人差別はある。ユダヤ礼拝所への襲撃もある。世界全体を見てもポピュリズムの台頭がある。

また、着目したいのが、この場所が広場という点だ。公共空間であり、メディアになっている。多くの町の広場は、権力に都合の悪い本はこれみよがしに焼かれたり、中世にあっては公開処刑をした場所だ。

そういうメディアになっている場所だからこそ、ハヌカの燭台が置かれることは「共存のシグナル」に見えるのだ。もちろんこういう取り組みの背景には欧州におけるユダヤ人の歴史的な関係もある。そこは正直なところ肌感覚ではなかなか理解できない。それにしても外国人市民として、この町に一抹の安心感を覚えるのだ。

翻って、偶然のことだが、この場所はかつて、バイエルンで最初のユダヤ人教授で名誉市民だった医師の銅像がたっていた。しかし1933年に破壊された。燭台の意味の重要性がより際立つ。(了)


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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。