対談記事は東洋経済オンラインに掲載されています。ぜひご一読ください

社会学が専門で、サッカークラブ「AS.ラランジャ京都」の会長でもある上田滋夢さん(追手門学院大学教授)と日独のスポーツについて対談。その記事は東洋経済オンラインに掲載されているのだが、記事中にあるコミュニティの違いの指摘が興味深いので、ここで追記しておく。

2021年4月15日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


この対談の一つのキーワードはコミュニティだ。

上田さんは「『コミュニティ』という言葉、日独で少し違うように思う。日本では場所や地域のことを指すことが多いと感じます。地縁血縁が原点になった『固定型』。それに対して、ドイツは場所というより、人々の『つながり』そのものがコミュニティだと」と述べる。

この指摘は私も賛成するところで、趣向や目的を同じくした同好の士の集まりの『つながり型』がドイツで多いと理解している。しかし、対談記事を読んでくださった方のコメントなどを見ていると、日本では想像以上にこの差を明確に説明する必要を感じた。


都市は「赤の他人」の集まり、という大前提


対談記事は東洋経済オンラインさんに掲載されている。(画像をクリックすると、対談記事のページに飛びます)

ここでは、ドイツはなぜ「同好の士」の集まりが多いかを検討しておく。一言でいえばドイツの都市の大前提は「赤の他人」の集まりということだ。

日本では「都市は冷たい」と言われることがあるが、これは「赤の他人が、ただ集まっているだけで、人は孤独だ」といったイメージに基づいているのではないか。

都市史のユルゲン・ロイレッケの議論によると、ただ人口が多いだけでは「都市化」しただけという。文化や歴史が際立ち、そして様々な人間関係があってこそ「都市社会化」がおこる。

NPOのような非営利組織は「都市社会化」を促す装置のひとつといえる。これは職業や地縁・血縁などとは無関係で、趣向や目的を同じくする人で集まる。そして非営利組織の数は日本と比べると、桁違いにドイツのほうが多い。私が住む11万人の都市ですら700以上ある。少なくとも700以上の赤の他人の「同好の士」の集まりがあることを示している。

日本でも「人口が増えた都市(らしき自治体)」はある。しかしそれは地縁血縁型の人間関係が内面化されたまま、「都市化」しただけ。そして「都市社会化」をするのを忘れてきた。そのために「コミュニティ」といえば、固定型のものをまず思い浮かべるのだろう。(了)


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都市の魅力を高めるスポーツ
スポーツは地域のコミュニティを作る

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。