社交ダンスは『いかにもヨーロッパ』のひとつ。個人的な体験も含めてドイツ社会と社交ダンスについて書き留めておきたい。

2013年5月2日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


これは困った


社交ダンスといえば、日本では鹿鳴館にはじまり、昭和初期のモボ・モガたちが楽しんだ。戦後は中川三郎などによる1960年代の普及。そして最近では、といってももう10年以上前のものであるが、映画『Shall we ダンス?』(1996年)あたりでその認知度が高まった。 

それに対して、ドイツにいると何かと舞踏会がある。日常的といってもよい。そして、家庭内にも「社交ダンス」が入ってくる。私が住む町のダンススクールが行っている半年間のコースに最近、娘が通いだした。

おもしろいのは同時期に、同じような年代の子供を持つ友人・知人と顔を合わせると「ウチの子供はどこそこのコースに行ってる」といったことが話題になることだ。
なるほど、 10代になるとやらせるべき教養というわけである。

コースが終了すると、ダンススクールが市の大ホールで舞踏会を開催する。参加者はスクールに通う人たちが中心。舞踏会の途中でコースに通った若者たちの「お披露目」の時間がある。

ここで大きな問題が発生した。 それは「お披露目」の最後、私も娘と踊らねばならないということだった。 「ムム、これはなんとかせねば」と、舞踏会の1ヶ月ほど前から簡単なステップを覚え、練習。ダンススクールでもそんな親のために無料のコースを1度提供しているので、妻と一緒に参加した。

面白いのは別の友人夫妻ともここでばったり。
「娘と踊らないといけないが、私のほうはすっかり忘れていてね」と夫のほうが笑う。が、「こっちはそんなもん、やったことありませんがな」と冷や汗だ。

また市街にある文化施設で定期的に無料で社交ダンスのためにホールを開放しているのだが、妻と数回足を運んだ。ともあれ1ヶ月の血と汗と涙の特訓(?)のお陰で社交装置としてのダンスが肌感覚で少しづつ理解ができてきた。


 社交ダンスの層の厚さ


もっとも若い人全般に社交ダンス人気があるわけでもない。また男の子は恥ずかしいのか、はたまたクールじゃないのか、ダンスに対して積極派は少なく、ダンス教室ではパートナーの男の子をいかに調達するかがけっこう課題になる。 

それにしても、社会全般を見渡すと社交ダンスはまだまだ存在感がある。
とりわけ長年、趣味としている夫婦はすごい。前述の文化施設では、でっぷりとお腹の出たオヤジさんや白髪の御仁が、憎らしいほど軽やかに、そして楽しそうにステップをふんでいるのだ。 

またダンスで思い出すのが柔道だ。私は定期的に柔道のトレーニングに行くが、トレーナーの一人は足技をかけるタイミングを説明するときに、『ほれ、イチ、ニ、サン。イチ、ニ、サン。はい、(相手に)足を今かける』とおどけてダンスを模して説明することがある。

これもダンスが普及しているからこそ出てくる練習方法といえるだろう。このトレーナーも舞踏会では軽やかに踊っている。

ページ:  1 2 

次ページ 市議の中には職業・ダンス講師の人もいる