ドイツといえばビールだが、各地に地ビールがある。地域の文化やライフスタイルの一部になっているのがその特徴だ。エアランゲン市(人口11万人、バイエルン州)のビール会社を見てみよう。

(拙著「エコライフ ドイツと日本どう違う」からの抜粋・加筆)

2020年8月31日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


瓶ビールはつくらない


筆者が住むエアランゲン市の駅から10分程度歩いたところに、煙突のついた石造りの歴史的な建造物がある。ビールの工場兼レストランを併設したビール会社「シュタイバッハブロイ」だ。同社は瓶ビールの製造はしない。瓶ビールの製造販売は経営上適性規模ではないと判断した。

この建物はもともと、会社名になっているシュタイバッハという家族が1861年からビール工場として使いはじめた。その後モルト(麦芽)づくりに専念するようになるのだが、同家の末裔のクリストフ・ゲベルトさんが、1995年にレストラン兼工場としてビールの製造をふたたびはじめた。再創業である。


画像をクリックするとこのサイト内の拙著の説明ページに飛びます。読者の皆さんの感想多数掲載。



同市にはもうひとつ瓶ビールを製造する地ビール会社がある。マーケットの食い合いになりそうなものだが、対抗するわけでもない。瓶ビールを売る場合、瓶詰や流通、空き瓶の回収、洗浄という工程がある。これの有無で似て非なる業態になる。ゲベルトさんは「コンセプトがまったく違うからね」とさらりという。この考え方は正しかった、大当たりだ。

年間の生産量は100キロリットル、「ここでしか飲めない地ビール」という魅力がある。さらに夏になると、地区ごとの夏祭りのように、あちらこちらで大小さまざまなビール祭りが行なわれる。そこへ、コウノトリのマークがついた巨大な樽をトラクターで牽いて会場までやってくる。

また、経営を支えているのはビールの製造パターン。定番のビール一種類に加え、毎月異なる種類のビールを製造する。人気のあるものは再登場もある。「売れる量しか作らない」という経営方針と相性がよい。


「都市の構造」が人をよぶ


ゲベルトさんは街の構造そのものが売上に影響していると考えている。

  • エアランゲン駅から近い上に市街地にあり立地条件はいい
  • 同市に大学があるから学生客も多い
  • そしてエアランゲン市は70年代から自転車道が整備された元祖「自転車都市」である。

以上の3点だ。アルコール類を飲むと自転車も「飲酒運転」ということに一応なるが、そのへんは大目に見てもらえる。自動車で来る必要がない。

参考:自転車通勤の快適さ日本とドイツの圧倒的な差 (東洋経済ONLINE)

夏は外で飲める。エアランゲン市は自他認める「自転車都市」。この都市の特徴とうまくマッチングしている。


それから、同社はコウノトリのマークの入った2リットル瓶(=冒頭の写真)と10~100リットルの6種類の樽を販売している。自宅や友人宅でパーティなどをするときは、人々が2リットルの瓶をさげて自転車でやってくる。ちょうど徳利をさげてくるようなあんばいだ。

環境保全と経済の関係でいえば、このビール会社の経営からは、脱大量生産・大量消費というキーワードがうかぶ。つまり適正規模の追求だ。さらに、物流による大気汚染やエネルギーの使用量をさけるために、地産地消というキーワードの中に含めることもできるだろう。自転車都市でのビール産業のありかたも浮かび上がる。

ところで日本での地ビールは地域おこしなどの起爆剤として考えるケースが少なくない。しかも「地域おこし」といってもビールは他地域や観光客への「輸出品」のような位置付けにあることが多いように思える。

さらに、第三セクターが経営する。お役所がかかわり失敗する。せっかくお役所がかかわっているのだから、市民に愛されるビールをつくり、環境保全型の適正規模と都市計画を併せて考える追及する地場産業として「地ビール」を考えられないものかと思う。


都市の文化の一部であり、文化を作る要素のひとつ


以上が、2003年に出版した「エコライフ」からの抜粋・修整したものだ。数字や同市の状況などは当時のものであるが、基本的にあまり変わっていない。

同書では環境問題に引きつけて書いているが、地ビールとは都市の文化の「一部」であり、都市の文化を「作る」ものでもある。そのため、「エコライフ」以降の拙著ではいつもビールが登場する。最新刊「ドイツのスポーツ都市」でもビールを扱っているが、都市文化としてみると、スポーツとビールは関連しているのがわかる。


地方の都市文化を見ると、意外にもスポーツとビールは結びついている。書影をクリックするとアマゾンのページに移ります。



またシュタインバッハブロイは「都市の顔」のような一面がある。だからプライベートやビジネスでも、外からのお客さんを連れていくのもここ。私も個人的に訪ねてくださる人や、研修プログラム「インターローカルスクール」の参加者の皆さんをお連れする。「都市文化」の一部として体験していただくのが狙いだが、ジョッキ片手に議論がはずむ。

それから、筆者も2リットルの瓶を持っている。時々、この「ビール徳利」片手に自転車で買いに行く。「自転車+地ビール」の組み合わせが、いかにも「エアランガー(エアランゲン市民)」という感じの行動である。この町のライフスタイルなのだ。(了)

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。 最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)
一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら