125周年を迎えた1.FCニュルンベルク

2025年5月、ドイツの伝統サッカークラブ「1.FCニュルンベルク(FCN)」が創設125周年を迎えた。現地の地域紙『エアランガー・ナハリヒテン紙』の複数記事(5月2日〜6日付)をもとに、その祝福の様子と、クラブが地域社会に果たす役割について考察する。ニュルンベルク市はバイエルン州内にある、人口53万人の州内で2番目の都市である。
2025年5月7日 文・高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
1.FCニュルンベルクとは何か
1.FCニュルンベルク(FCN)は、1900年に18人の若者がニュルンベルク市内の居酒屋で創設した。以来、ドイツサッカー界を代表する伝統クラブとして、数々の栄光と苦難を経験してきた。これまでに国内リーグ優勝9回、ドイツのカップ戦である「DFBポカール」※でも4度の優勝を果たしている。このように輝かしい実績を誇る一方、度重なる降格や財政難にも直面してきた。
※DFBポカール:プロ・アマ問わず全国のクラブが参加し、トーナメント方式で王者を決める大会。日本の「天皇杯」に相当する
1.FCニュルンベルクは、歴史的にハンドボールや陸上、ボクシング、アイススケートなど多様な競技部門を持つ。日本でいう「総合型スポーツクラブ」として発展してきた。地域住民が会員となり、複数のスポーツ活動を支える仕組みが根付いている。現在はサッカー部門がクラブの中心となっており、そのトップチームが「1.FCニュルンベルク」(ブンデスリーガ1部・2部リーグ)である。サッカー部門には育成組織や控え・若手選手で構成されるリザーブチーム(1.FCニュルンベルクII)も存在し、地域の子どもからトップ選手まで一貫した育成体制が整っている。
このような構造は、ドイツに広く見られる「地域密着型クラブ」の典型であり、地域社会とスポーツのつながりを強く意識した運営がなされている。FCNは、ニュルンベルク市民にとっては、単なるプロサッカーチームではなく、地域コミュニティの核として、スポーツ文化の発展や市民の交流にも大きな役割を果たしてきたと言える。

125周年を祝う―式典とファンの祝福
125周年を祝う一連のイベントは、まさに「地域を挙げての祭典」となった。5月初旬、ニュルンベルク市庁舎では650人以上の関係者を招いた公式レセプションが開催され、歴代の名選手・監督・クラブ関係者が一堂に会した。他にもファンや市民、政治家も参加。バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏も「子供の頃からのクラブファン」として祝辞を述べた。
市内中心部では1万人近いファンが参加する大規模なファンマーチが実施され、クラブカラーの旗や記念グッズで彩られた行進がスタジアムまで続いた。沿道では教会の鐘が鳴り響き、クラブの歴史や地域社会への根付きが象徴的に表現された。
また、記念試合当日にはスタジアムで人文字や横断幕による大規模なビジュアル演出が行われ、約5万人の観客がクラブの歴史を祝福した。記念試合自体は敗戦となったが、ファンは選手たちを温かく迎え、クラブへの愛情を改めて示した。
さらに、記念映画『伝説のオーラ(Aura einer Legende)』が公開され、クラブの歴史やファン文化、地域社会とのつながりを多角的に描いた。教会での記念礼拝も開催され、宗教を超えた「クラブ信仰」とも言える結束が印象的だった。
地域社会にとっての1.FCニュルンベルク――編集長の目線から
興味深いのは、編集長のミヒャエル・フサレックが論説記事(5月2日付)で次のように書いていることだ。
「1.FCニュルンベルクは、まるで親が愛情を注ぐ子供のように、地域の人々にとってかけがえのない存在である。クラブへの支出や心労は決して小さくないが、その愛情はあらゆる困難を乗り越えて持続する」と、クラブが単なるスポーツチームを超え、ニュルンベルク一帯の「フランケン地方」全体の「大きな子」として、世代や立場を超えて人々を結びつけている点を強調する。
またフサレック編集長は、1.FCニュルンベルクのファンは、勝敗やリーグの上下に関わらずクラブを支え続けると指摘する。たとえ2部リーグでの長い戦いが続き、経営危機に瀕した時期があっても、ファンの熱意と結束は揺るがなかった。「クラブファンは、相手が誰であれ、どんなスタジアムであれ、愛と信仰、情熱を持って応援し続ける」。こうした姿勢がクラブと地域社会の深い結びつきを象徴していると論じている。
加えてクラブの伝統や歴史が、単なるスポーツの枠を超えて地域の誇りやアイデンティティの核となっていることにも言及する。クラブの成功体験や苦難の歴史は、地域社会全体の記憶として共有されている。「クラブがなければニュルンベルクは考えられない」とまで述べ、クラブが都市や地域の精神的支柱であることを強調する。
このように、編集長自らが論説記事を執筆していることからも、1.FCニュルンベルクが地域社会にとって大きな存在であることが伝わってくる。
また昨今、ニュルンベルク市内にあるスタジアムの改修計画が持ち上がっているが、州政府と市、クラブが連携し「地域の未来プロジェクト」として推進されている。
クラブ型スポーツというDNA
日本のJリーグは、ドイツのクラブ文化を参考にしつつも、企業スポーツのDNAを色濃く残している。一方で、ドイツのクラブは地域社会に根ざし、市民が主体的にクラブを支える「クラブ型スポーツ」が原点だ。
もちろん、どうしても「競争力」のために資金調達などのやり方にクラブ型運営との緊張感もあるが、FCNの125周年イベントの祝福の様子からは、地域との結びつの強い「クラブ型スポーツ」のDNAとも言える部分を体現している。(了)
著書紹介(詳しくはこちら)
「スポーツクラブ文化」について、たっぷり書きました。

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら