日本とドイツのスポーツ文化を比較し、その背景や未来について考えるYouTube番組「ありへーのスポーツカフェ」が配信1周年を迎えた。追手門学院大学教授の有山篤利と、ドイツ在住ジャーナリストの私・高松平藏が共同でお届けしている。部活動や体育会系文化など多様なテーマを深掘りし、スポーツを取り巻く社会との関係性を検証している。


日本とドイツ、二つの視点から見るスポーツ文化


有山篤利・高松平藏共著「スポーツを地域のエンジンにする作戦会議 ドイツの現状、日本の背景を深堀り!」(晃洋書房 2023年)。詳細はこちら

有山さんは元高校教員として部活動指導の経験を持ち、研究者として「体育会系」と呼ばれる日本のスポーツ文化の現状や思想的背景を批判的に分析している。一方の私はドイツの都市社会・文化の現場からスポーツを観察し、その違いを外側の目で捉えている。この二つの視点が重なり合い、「内側から掘り下げ、外の目からも検討する」というアプローチを実現している。

動画の出発点になったのが共著『スポーツを地域のエンジンにする作戦会議』(晃洋書房刊 2023年)である。だがこの共著自体が約10年にわたる2人の継続的な議論の結晶だ。スポーツ文化の意義や地域スポーツの課題を体系的に解き明かしている本書は、動画の視聴とあわせて手に取っていただくとよいだろう。


多彩なテーマとゲストの声に支えられて


配信した動画を振り返ると、「スケートボーダーは武芸者だ!」ではストリートスポーツの新たな解釈を提示し、「部活って日本にしかないの?」では部活動の特異性と社会的背景に踏み込んだ。体育会系の歴史的役割や若手アスリートの悩み、「愛の鞭」と表される指導のあり方の変化にも光を当てた。

平尾剛さん(神戸親和大学教授)や現役アスリートの𠮷澤拓斗さんら、多彩なゲストの声が議論に厚みを加えている。


変わりゆく日本のスポーツ文化と向き合う


毎回、「ドイツの場合」を比較軸として取り上げることで、地域クラブの仕組み、市民参加、社会人スポーツの継続インフラや企業と体育会系の結びつきなど、多角的に日独の違いを浮き彫りにしてきた。これは「ドイツの事例が素晴らしいので、ぜひ導入せよ」という意味ではない。異なるスポーツ文化を知ることが、自分たちのスポーツの意味や役割を再考する重要な入り口ととなるためだ。

この四半世紀、日本のスポーツシステムや価値観、社会との関係性は再編の局面にある。部活動問題も含め、その課題は今後も継続的に問われ続けるだろう。そのなかで、スポーツ文化を問い直す視点は、これからの部活動・地域スポーツ・社会的役割を考える上で欠かせないものだ。

今後も「スポーツを地域のエンジンに」をキーワードに、議論を深めていく。そして視聴者のみなさんにとって、新たな問いを立てるきっかけとなることを願っている。(了)


以下、この1年間で配信した番組リスト

2024-09-01 スケートボーダーは武芸者だ!
2024-09-26 部活って日本にしかないの?
2024-10-20 はて?いつからスポーツは部活動でやるようになったんだろう
2024-11-26 托卵型育成モデルでできている日本のスポーツ
2024-12-20 スポーツって、うまくなるだけでいいの?前編 (ゲスト 平尾剛さん/神戸親和大学教授)
2025-01-04 スポーツって、うまくなるだけでいいの?後編 (ゲスト 平尾剛さん/神戸親和大学教授)
2025-01-30 スポーツって大会に出ることですか?
2025-03-05 体育会系と呼ばれる「文化」の不思議
2025-03-28 「社会人になっても続けたい」 -若手トップアスリートの憂鬱  (ゲスト 𠮷澤拓斗さん/アーチェリー選手 第62回全日本学生アーチェリー個人選手権大会 優勝)
2025-04-25 体育会系が戦後日本を救った!?   
2025-05-20 相思相愛だった体育会系と産業社会 
2025-06-21 愛の鞭って成立するんですか
2025-07-20 ガラパゴス化する体育会系
2025-08-22 変わったようで変わっていない日本のスポーツ
2025-09-23 スポーツはオンの活動?オフの活動?


有山篤利・高松平藏の著書

有山篤利 著
「わざ」を忘れた日本柔道(大修館書店、2023年)※書影をクリックするとAmazonのページに飛びます
高松 平藏 著
「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」(学芸出版、2020年)
高松 平藏 著
「ドイツの学校には なぜ 「部活」 がないのか  
非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房、2020年)

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら