フェスティバル開催に伴う問題を解決したら、「中心市街地」に思わぬ効果が出た。

地方都市の文化フェスティバルといえば、たいていが中心市街地が全体が会場。それでもメイン会場の場所によって市街地の様子がずいぶんかわる。いつものメイン会場が使えない年に、緊急の対策として行ったことが、かえって歩行者ゾーンの良さを最大限に活かせた。2年に一度、筆者が住むエアランゲン市(バイエルン州 人口11万人)で開催される「インターナショナル コミックサロン」(以下コミックサロン)の意外な例を紹介する。

『月刊 信用金庫』2018年7月号執筆分に加筆修整。記事中の時系列も当時のまま。

2022年7月18日 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


賑わってはいるが、100年単位でみると旧市街地が寂しくなった


この顛末を書く前にエアランゲンの中心地について説明しよう。
そこは、歩行者ゾーンになっている500メートルあまりの大通りで、道路沿いには歴史的な建築物が残り、小売店や銀行、オフィス、図書館、ギャラリー、カフェなどが揃う。

さらに道路が膨張したかたちの「広場」が大小2箇所ある。これはバロック様式の都市計画でつくられたまちの広場の特徴だ。

大きな広場はさらに「宮殿庭園」と接続している。平日でも人がたくさん歩いていているので、まちづくりなどの分野の専門家がお越しになると、ため息まじりで「なぜこんなに賑わっているのか?」と漏らされる。「中心地街活性化」とか「ウォーカブル」といった課題を抱えているところからみると、非常に魅力あるメインストリートなのだ。

普段でも賑わうウォーカブルな市街中心地だが、エアランゲン市のみならず、ドイツの多くの地方都市が同様の構造で作られている。

それにしても、100年単位でみると主要施設の移転などで500メートルのメインストリートの「中心地」も移る。最近では、2008年にできたショッピングモールあたりがもっとも賑わう。このモールの出入り口は大通り沿いにあり、他の店舗とも軒を連ねるかたちのもので、「市街地全体」としては、あまり問題ない。が、詳細に見ると、ショッピングモールから200メートルほど離れた旧市街地あたりが寂しくなった。


市街地全体の「テーマパーク化」が戻った意外な理由


「コミックサロン」の話を進める。今年は18回目、5月31日から6月2日にかけて開催された。
中心会場の市営ホールがあるのは大通りの「果て」。それでも文化関係のフェスティバルがあると、まさにまちが「テーマパーク」のようになる。カフェ、レストラン、ホテルなどのサービス業を中心に経済効果もある。

ただ、賑わいの中心地が移動してから、コミック・サロン開催時の人の動線が変わった。市街地全体がまんべんなく「テーマパーク化」しにくくなったのだ。

メインストリートの広場に作られた仮設ホール。多くの人が集まった。(撮影:高松平藏)

ところが、今年は市営ホールが工事中だったので、中心地の広場や宮殿庭園などに仮設ホール3箇所をつくった。仮設とはいえ、安くはない。議会も「やむを得ず」承認した。しかし、ふたを開けるとどうだろう。ちょうどメインストリートの真ん中にある広場や庭園あたりにもっとも人がもっとも集まり、市街地全体が「コミック文化のテーマパーク」と化したのだった。

この怪我の功名のような「効果」は多くの人が感じたらしく、フェスティバル終了後も地元紙は「市街中心部のためのカラフルな復活。(コスプレした漫画ヒーローに)路上で会えた」と報じた。また地元紙には「読者フォーラム」という投稿ページがあるが、ある読者は次のようなコメントを投稿した。

ホール工事につき、やむなくとった「緊急ソリューション」が、中心部のために幸運であることが判明。活気に満ちた漫画の街になっていて驚嘆した。人々はフェスティバルが提供するプログラムや展示物などに自由にアクセスできた。いつも以上にレストラン経営らは恩恵を受けた。

今回も約500人のアーティストや関係者が集まり、3万人ほどの訪問者を数えた。(了)


著書紹介(詳しくはこちら
 

コミックサロンは都市の発展にどのように寄与しているのか?
中心市街地の歩行者ゾーンの価値は「ウォーカブル」だけではない。

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら