11万人のドイツ地方都市は、外国人と都市社会をどのように作っていくか、明確に示した。

ドイツの地方都市、エアランゲン市(人口11万人)では、毎年、ドイツに帰化した人々を祝うイベントを開催している。そこから、町は外国人とどのように社会を作っていくべきかと言う方針が見出せる。

2023年6月16日 高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


294名の「新ドイツ人」


6月15日付地元紙の報道によると、このほど市のホールで2022年に「新ドイツ人」になった294名が招待され、市議会、行政と「祉会福祉大臣」に相当する人物も参加した。

帰化人数は過去最高の人数だという。そのほどんどがシリア出身。難民認定されてから6年後に帰化申請ができる制度と関連があるが、2015から2016年にかけてシリアなどからの難民が大量に流れ込んだ。

ここで着目したいのが、同市が帰化した人たちをどのように位置付けているかだ。

例えば同市には外国系の市民議会がある。政治的な決定をする機能はないが、外国系市民の利益を代表し、課題に取り組む役割だ。その代表が「パーソナリティ、文化、経験で国と市を豊かなものにしてくれることに感謝する」と述べた。

また市長は次のように述べている。「帰化を選択することはエアランゲンの都市社会への信頼の表れ。そして社会は人が関わることで発展する(ぜひエアランゲンの社会に関わってほしい)」。

写真=大量難民がドイツに入ってきた翌年、エアランゲン市で文化フェスティバルの一つのコーナーには難民によるドイツ語の作文を発表するプログラムも組まれた。同市にも1年間で1000人以上がやってきた。(2017年8月27日 筆者撮影)

最低限「人間の尊厳」を守った上でさらに・・・


日本とヨーロッパでは「外国人」に対する感覚が歴史的に異なるし、実態も異なる。またドイツでも外国人に関する議論や意見はいろいろある。

加えて国内にやってくる定住外国人と一言でいっても仕事、学術、留学、難民、移民、国際結婚などさまざまな理由がある。犯罪や国家機密漏洩などを心配する人もいるだろう。

それにしても同市の様子からは、「外国人」とどのように共生していくかという方針が地方レベルでも示されていることが見出せる。

日本に目を転じると「外国人」との関わりが今後も増えてくるだろう。その時、「人間の尊厳」を守ることは最低限必要なことだが、その上で、どのような方針で迎え入れるべきか。これが重要になってくる。

「新ドイツ人」の代表は「『故郷』は生まれた場所だけを指すのではなく、居心地の良い場所もまた故郷になりうる」と発言している。(了)


著書紹介(詳しくはこちら
外国系市民も交えて都市社会を作る地方都市 

都市の創造性には多様性が不可欠だ
スポーツクラブも難民を手助け

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら