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西村:その話の中でね、オーガニックファームとかオーガニックレストランの話に及ぶのですが、いつも、どこかでアラン・チャドウィックの名前が出てくる。それに小田さんは実際にサンフランシスコのオーガニックファームでチャドウィックとお会いになったこともある。

高松:チャドウィックが気になる存在になった経緯がわかりました。


ヒッピーでもなかった


高松:論文を通してチャドウィックに影響された人などを見ていると、禅とかヒッピームーブメントと親和性が高い。彼は当時のヒッピームーブメントをどの程度まで意識して活動していたのでしょう?

西村:チャドウィック自身は保守的でスタイルを崩さない人だったと思います。若い頃に身に着けたライフスタイルとか生き方のありようを崩さなかった。亡くなるまで、いちシェークスピア役者。あるいはマスターガーデナーとしてのスタイルをまったく崩さなかったと思います。

高松:なるほど

アラン・チャドウィック(1909-1980)。園芸教育家で有機農業技術の第一人者。イギリス貴族の家系に生まれ、青年期に園芸と演劇に没頭。アメリカに渡ったのは1962年。(写真提供 西村仁志さん)

西村:彼に会った人たちそれぞれが感化されていった。チャドウィックはUCサンタクルーズを離れた後、サンフランシスコ禅センターのグリーンガルチという禅寺に滞在し、菜園づくりに従事していましたが、一回も禅も組んでないと思う。

高松:そうですか。

西村:むしろね、チャドウィックは座禅の習慣は気に入らなかったようです。

高松:どういう点が気に入らなかったのでしょう?

西村:若い修行僧たちは畑作業に参加するんだけど、座禅の時間を知らせる鐘が鳴ったらアランを一人おいて禅堂に戻っていくわけ。それをひどく怒っていたらしい。彼は禅とは相容れないですね。


「ヨーロッパが目の前にやってきた」


高松:論文でオーガニック運動の定義(※)をされています。こういう定義のような意識はチャドウィックはしてなかったということ?

西村さんによる「オーガニック運動」の定義:
「産業社会化、都市化の進展および平和、環境、⼈権、フェミニズム運動などを背景に、化学農薬、肥料等の物質を使わず⽣命活動を利⽤した農産物を作ることを基盤とし、またそれらの加⼯、流通、消費などの経済活動、持続可能なライフスタイルや社会の形成にまで及ぶ⼀連の動き」

西村:たぶん、そうだと思う。彼は産業革命以前のヨーロッパ貴族が1970年代まで生き残っていたような雰囲気の人だと思います。

高松:まわりが、彼の考えや行為に対していろんな意味を見出したということでしょうか。

西村:そうですね。例えばガーデンの作業小屋の前にみんなが集まるような木のテーブルがあるのを想像してほしいんですけど・・・。

高松:はい。

西村:そういうところに、テーブルクロスを敷いて、畑から切り花を持ってきて、花瓶にいれて、テーブルの真ん中におく。みんなで集って、野菜中心の料理をみんなで作って、みんなで食べる。そういうスタイルを思い浮かべていただきたいんです。

高松:いい感じですね。

西村:はい。でもね、アメリカの食生活というと、ハンバーガーにピザ、肉汁のしたたるステーキ、フライドポテトみたいなイメージがある。ちょっと違うでしょ。

写真=西村仁志さん提供

チャドウィックによる学生指導について西村さんは次の4つの特徴があるとしている。
1.Apprentice(見習い、実習生)、Apprenticeship(徒弟制度)
2.“Learning by Doing”やってみせて、意味を語る。
3.ドラマチック(演技、語り、大声、ユーモア、風刺、比喩)
4.問答を通じ、深い理解を促す。

高松:チャドウィックのことを指して、「ヨーロッパの伝統文化が目の前に人間の姿になって現れた」と言った人がいるそうですが、こういう部分をさしていたのでしょうか?

西村:そうだと思います。シェークスピアで描かれるような人が実際の人間になって現れた。たいへんなインパクトだったと思う。

高松:テーブルを囲んで、彼はどんな感じだったのでしょう?

西村:ものすごく饒舌(笑)。晩年のインタビューなんかはYoutubeにもアップされてます。

高松:うるさそうなオヤジ?笑

西村:そうだと思います。チャドウィックは人の好き嫌いもはっきりしている。近づいて来る人も「とっつきにくい爺さん」と思って離れて行った人もたくさんいると思います。

高松:カリスマ性があったわけではない?

西村:チャドウィックについていった若者たちにとってはカリスマ。でも本人は庭いじりばかりしていて職人気質。すぐにカッカして大声出して怒ったりする。そんな感じだと思います。

高松:なるほど。チャドウィックの人となりが少し見えてきました。そんな彼はどうやってカリフォルニアにたどりついたのでしょう?

西村:なかなか大河ドラマ並みのストーリーがあります。次回、その話をしましょう。

次回、欧州の「緑の思想」がチャドウィックを通じてアメリカへ。そこには歴史のうねりがあります。

4回シリーズ 長電話対談 西村仁志×高松平藏
■欧州からアメリカへ伝播する「緑の思想」
第1回 アメリカ社会の肌触りとは?
第2回 頑固じいさんに若者が心酔した
第3回 ドイツから米国へ、まるで大河ドラマ
第4回 若者の反抗から「持続可能性」へ 


ドイツ・エアランゲンからネットを使って対談。あたかも「長電話」の如く、長尺対談記事の一覧はこちら