若者の反抗から「持続可能性」へ(最終回)

公開日 2020年12月29日

長電話対談
西村仁志(広島修道大学教授)
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高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

持続可能性やオーガニック運動は、欧州発の「緑の思想」とでもいうものが影響しているようだ。1960、70年代にアメリカで活躍したアラン・チャドウィックという園芸教育家がいる。彼の活躍を見ると、「緑の思想」がドイツ、イギリスを経由してアメリカに伝わった構図が浮かび上がる。このほど、チャドウィックについての論文をまとめた西村仁志さんと話した。最終回では、現在の「持続可能性」に至る前の過程として、若者の反抗としての「緑の思想」について検討する。(対談日2020年5月21日)

4回シリーズ 長電話対談 西村仁志×高松平藏
■欧州からアメリカへ伝播する「緑の思想」
第1回 アメリカ社会の肌触りとは?
第2回 頑固じいさんに若者が心酔した
第3回 ドイツから米国へ、まるで大河ドラマ
第4回 若者の反抗から「持続可能性」へ 


この人たちは親の言うことを聞かなかった


高松:チャドウィックはヒッピームーブメントに積極的に関与したのかと思っていたが、話をきくと(第2回)、どうもそうではない。まわりの若者が勝手に心酔していた。

西村:そうですね。

西村さんによると、アラン・チャドウィックはアメリカで欧州の伝統文化・園芸技術を体現した人物。そして、同時にカウンターカルチャーの世代の若者と遭遇した。真ん中の写真の白髪の人物がアラン・チャドウィック。(写真=西村さん提供)



高松:チャドウィックにくっついていった若者にとって、何が魅力だったんでしょう?

西村:カリフォルニアでチャドウィックの第一世代の弟子たちの話を聞くことができた。彼らは1967~69年に大学生で、当時アメリカでもモノの豊かさが最高潮になる。アポロが月におりる、科学技術と産業化が万能視された時代。

高松:そうですね。

西村 仁志(にしむら ひとし)
広島修道大学人間環境学部教授。京都YMCA勤務を経て、1993年個人事務所「環境共育事務所カラーズ」を開業。現在も代表を務めている。自治体や企業、NPO等の環境学習・市民参加まちづくりのコーディネートや研修会の企画運営などを行ってきた。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程(前期)修了。博士(ソーシャル・イノベーション・同志社大学)。2012年より現職。アメリカ・ヨセミテ国立公園へは1995年以降毎年通っている。
2018-19年、一年間にわたり在外研究でUCサンタクルーズ滞在。この時の成果として執筆した論文「アラン・チャドウィックの菜園プロジェクトとカリフォルニアのオーガニック運動への影響」(広島修道大学学術リボジトリ PDF閲覧可能)が今回の対談のきっかけ。著書に「ソーシャル・イノベーションとしての自然学校: 成立と発展のダイナミズム」など多数。1963年京都生まれ。


西村さんが、園芸家アラン・チャドウィックとオーガニック運動についてまとめた論文。PDF閲覧可


西村:ところが、それに対して疑問が出てくる。カナダに広大な土地を買って移住したほうがいいというような発想の人が出てきた。そういう人たちにとってチャドウィックはすごく見本になったんです。

高松:もう少し具体的に言うと?

西村:良い野菜、果物、美しい花を育てて、それで生計を立てていけるということを、チャドウィックは身をもって示したわけです。

高松:なるほど。

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)。スポーツに対する関心はもともと薄かったが、都市を発展させているひとつに「スポーツクラブ」があることに着目。スポーツの社会的価値を展開している様子を見て、著書につながった。また、同書ではスポーツ・余暇・運動インフラとしての森にも着目しているが、その背景にはドイツの「緑の思想」とでもいうものがある。これが西村さんの論文に興味を持ったきっかけ。
2020年11月末に新著「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」発売。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら


著書「エコライフ ドイツと日本どう違う」(化学同人)

2003年出版の本だが、ドイツの生活環境の変化も含む環境小史も。


西村:ヒッピームーブメントというとね、虹色の服きて、お花つけて、マリファナ吸ってというイメージがありますよね。

高松:一般的にはそういうイメージですね。

西村:しかし、その一方で土を触って、汗水たらしてという人がチャドウィックに惹かれた。そういう人たちがまっとうな人生を生きたいと集まってきたのかなと思います。

高松:はい。

西村:さらにね、親がもっている価値観ではなく、そういったものとは違う人生を自分で組み立てていけるんじゃないか。そういうものが生まれてきたのだと思います。

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