頑固じいさんに若者が心酔した

公開日 2020年11月25日

長電話対談
西村仁志(広島修道大学教授)
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高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

持続可能性やオーガニック運動は、欧州発の「緑の思想」とでもいうものが影響しているようだ。1960、70年代にアメリカで活躍したアラン・チャドウィックという園芸教育家がいる。彼の活躍を見ると、「緑の思想」がドイツ、イギリスを経由してアメリカに伝わった構図が浮かび上がる。このほど、チャドウィックについての論文をまとめた西村仁志さんと「緑の思想」について話した。4回にわたってお送りする。第2回目はチャドウィックの人となりについて触れていきます。(対談日2020年5月21日)

4回シリーズ 長電話対談 西村仁志×高松平藏
■欧州からアメリカへ伝播する「緑の思想」
第1回 アメリカ社会の肌触りとは?
第2回 頑固じいさんに若者が心酔した
第3回 ドイツから米国へ、まるで大河ドラマ
第4回 若者の反抗から「持続可能性」へ 


「アラン・チャドウィック」にたどりついた


高松:直球でお尋ねします。アラン・チャドウィックって何者?

西村:イギリス出身の舞台芸術家、俳優であり、そして園芸家なんですが、1967年にカリフォルニアにやってきてカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCサンタクルーズ)の学生菜園プロジェクトを指導します。ここから多くの若者がオーガニックの動きに関わっていくわけですが、まずどういう経緯で知ったかをお話ししましょう。

写真=西村仁志さん提供


高松:はい。

西村:昨年まで一年間、在外研究でUCサンタクルーズ滞在しました。そのきっかけになったのが、同校で長年、有機農業の研究者として活躍されている村本穣司さん。

高松:そんな方がおられるんですね。驚きです。

西村:そうなんですよ。私は村本さんを頼って在外研究のための準備に2017年に同校を訪ねたのですが、キャンパス内を案内していただいた。このとき「アラン・チャドウィックガーデン」を案内してもらったんです。

西村 仁志(にしむら ひとし)
広島修道大学人間環境学部教授。京都YMCA勤務を経て、1993年個人事務所「環境共育事務所カラーズ」を開業。現在も代表を務めている。自治体や企業、NPO等の環境学習・市民参加まちづくりのコーディネートや研修会の企画運営などを行ってきた。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程(前期)修了。博士(ソーシャル・イノベーション・同志社大学)。2012年より現職。アメリカ・ヨセミテ国立公園へは1995年以降毎年通っている。
2018-19年、一年間にわたり在外研究でUCサンタクルーズ滞在。この時の成果として執筆した論文「アラン・チャドウィックの菜園プロジェクトとカリフォルニアのオーガニック運動への影響」(広島修道大学学術リボジトリ PDF閲覧可能)が今回の対談のきっかけ。著書に「ソーシャル・イノベーションとしての自然学校: 成立と発展のダイナミズム」など多数。1963年京都生まれ。


西村さんが、園芸家アラン・チャドウィックとオーガニック運動についてまとめた論文。PDF閲覧可


高松:なるほど、この大学はカリフォルニア州中部サンタクルーズ郡最大の都市にあり、キャンパスは800ヘクタール以上。敷地内に森林や植物園があるそうですね。そのひとつがチャドウィックの名前がついた菜園がある(=冒頭写真)。これが園芸教育家として存在した「証明」のようなものですね。

西村:ところが、そのとき村本さんから伺った話は「この大学の開学まもない60年代に、演劇の人であったアラン・チャドウィックという人が作った菜園」ということくらいでした。その時は私も「へー、そうなんだ」くらいしか思っていなかったんですね。

高松:その「ヘー、そうなんだ」が、チャドウィックの研究に?

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)。スポーツに対する関心はもともと薄かったが、都市を発展させているひとつに「スポーツクラブ」があることに着目。スポーツの社会的価値を展開している様子を見て、著書につながった。また、同書ではスポーツ・余暇・運動インフラとしての森にも着目しているが、その背景にはドイツの「緑の思想」とでもいうものがある。これが西村さんの論文に興味を持ったきっかけ。
2020年11月末に新著「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」が発売される。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら


著書「ドイツのスポーツ都市」(学芸出版)

メディアで紹介していただいたり、たくさんのコメントなどもいただいている。こちらに詳細あり
また書影をクリックするとAmazonに飛びます。


西村:もう1つきっかけがあります。かねてよりご縁のあったハワイ島在住の画家、小田まゆみさんから、UCサンタクルーズができた頃の歴史をいろいろ聞く機会があった。

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