「前提」を再考する必要性も

2025年3月、東京・丸の内で開催されたサステナブル・ブランド国際会議2025(SB’25)に参加した。私にとって、久々の一時帰国でもあり、また会議での登壇は、現場の熱気や対話から多くの刺激を受けた。Facebookに投稿したものを元にまとめておきたい。
2025年4月17日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
Z世代の声に触れる。SDGsの「飽和」と「基盤化」
会議前夜のレセプションパーティーで、若い男性から声をかけられた。共通の知人から私のことを聞いており、参加者リストで私の名前を見つけたという。対話にの中で「将来はどうしたいのか」とお尋ねすると「故郷のために何かしたい」と返ってきた。持続可能性の議論が理論や政策のみならず、個人の情熱と結びついているのを実感する形だ。また、中年目線で言えば「しっかりした若者だなあ」と感じた。

会議初日にZ世代の若者たちが社会課題に取り組むブースを訪れた時にも、同じことを感じた。ブースにいた一人に「あなたにとって、持続可能性とは何か」と尋ねると、「SDGsはもう十分」との声が返ってきた。SDGsが過剰に連呼され、食傷気味というわけだ。しかしながら、「インフラのようなもの」で必要不可欠なものという認識だった。
日本にありがちなのだが、言葉の飽和「バズワード化」が起こっているが、一方で概念の定着も同時に起こっているように思われた。
ファシリテーターとして登壇した「ストック・シェアリング」セッション
3月19日、私は「ストック・シェアリングによる新たな街とコミュニティづくり」というセッションでファシリテーターを務めた。ストック・シェアリングとは、都市の既存資源である空間や時間、人材を共有し、新たな価値を創出する考え方だ。名古屋学院大学のプロジェクトを起源とするこの概念は、登壇者の多くにとっても初めて聞くものだろう。
登壇者の千葉健司氏は、空きビルを活用した地域再生の事例を紹介。関谷岳久氏は、企業の人的資源を地域課題の取り組みに活かしている例を語り、歴史的背景がもつ独自性の強さがあると指摘。石川貴之氏から出た「個人のパッションを組織のミッションに繋げ、社会にインパクトを創る」という言葉は千葉氏の事例にも当てはまることも多い。(登壇者の肩書は下記写真の記述)
「課題推進やニーズ対応を超えた情熱の重要性」「歴史的背景が生む独自性」がセッションで得られた共通認識か。
ファシリテーターとしての経験は初めて(と思っていたが、後になって20年ほど前に一度やったことを思い出した)。ともあれ、議論を円滑に進めるにあたり、共通の枠組みとしてストック・シェアリングを用いた。登壇者の皆さんは、プレゼン内容をこの概念に変換してくださり、議論の一貫性を保てた。

EUの文化とエコ規制の文化的読解
同日夕方、私は「EUの文化とエコ規制~企業価値に響く認証の考え方」というセッションでスピーカーとして登壇した。EU市場に進出する日本企業にとって、デジタル製造パスポート(DPP)などのエコ規制は大きな課題だ。だが同時に、「なぜEUがこれらの規制を設けるのか」ということを理解することが肝心で、外国人の立場からみると、そこには欧州の歴史的・文化的背景が明確にある。
実は私の専門であるドイツの都市発展も、欧州の歴史的・文化的背景を抜きにしては理解できない。規制対応は技術的な側面だけでなく、長期的な経営戦略の一環として捉えるべきだと訴えた。このセッションでは、EU規制の文化的読解を行なった形だ。また伊藤裕樹氏のスマートなファシリテーションにより、複雑なテーマも参加者に伝わりやすくなった。

多様な対話が生む新たな視点、同時に前提再考の必要性も
この国際会議は前夜祭も含めて、とにかくお互い話す機会を多く作ってある。この手の会議はインフォーマルな対話がわりと重要で、それをプログラム化しているところが良いと思った。おかげで2日間、常に誰かと話している状態が続いた。
多様な世代や立場の人々が持続可能性をめぐり活発に対話していたことは印象的な光景だ。若者の率直な意見、企業の実践例などが交錯した。そして、持続可能性はもはや特別なテーマではなく、社会の基盤として定着しつつあることがうかがえた。
それにしても、「なぜ持続可能性なのか」「持続可能性の核になる価値観は何か」「持続可能性の取り組みを進めている、私たちの環境はどのようなものか」といった前提再考の必要性を強く感じた。
歴史的な視点で言うと、冷戦時代以降の国際的な枠組みは、主に西側の倫理的価値観をベースに世界的な開発が行われた。その象徴がSDGsと言えるだろう。だが同時に市場経済や金融のグローバル化により、世界的な格差も広がった。「逆説的グローバル時代」と呼ぶことができる。2020年代からは「多極的覇権競争時代」に突入してきた。その中で持続可能性をどのように考えていくかという局面に入っている。(了)

高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら)

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか