全米で「住みたい街」No.1に輝くポートランドの街を、欧州目線で歩いた。

アメリカのポートランド(オレゴン州、人口約65万人)をこのほど訪れた。この街は全米で「住みたい街」No.1に輝くなど、都市問題等の分野に関心のある人にはよく知られている。このほど中心部の「オールドタウン」を歩いたが、ドイツの都市と比較するかたちで印象を書き留めておく。

2023年5月19日 高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


歴史を重視する姿勢


訪問したのは今年の4月24日。印象深かったのは、歴史を重視する姿勢だ。

130年ほど前に作られた市役所もリノベーションによって使い続けられていた。特にアポイントメントもなく訪問。入り口で持ち物検査こそ受けたが写真撮影もOKで美しい建築を堪能。役所内では歴史的建造物に関する公聴会が行われていた。

19世紀最後半に作られたイタリアルネッサンス様式の市役所。
市役所内は綺麗にされ、使い続けられているのがわかる。

また、オールドタウンにはオレゴン歴史協会があった。中を覗くことが時間的にできなかったが、Webサイトを見る限り、かなり研究・教育・イベント・展示といった通常、ミュージアムに付されるような機能が充実している。

ポートランドというと、高く評価されるのが広場「パイオニア・コートハウス・スクウェア」だ。ここにも「入植」以前のアメリカおよびポートランドの歴史を描いた銅版画が埋め込まれている場所があった。

広場には歴史絵のような銅版画が嵌め込まれ、歴史を重視する姿勢が窺える。

だだっ広い広場の寂しさ


さて、1984年に作られた評価の高い広場は「ポートランドのリビングルーム」と呼ばれている。確かにくつろいでいる人もいたが、「だだっ広い」というのが第一印象だ。

また、Tシャツと半パン、裸足で何やら大声でわめきながら広場を行ったりきたりしている人がいた。「くつろいでいる人」たちの風体もホームレスと呼んだ方が妥当な人も多い。

広場の良さを象徴するようなイベント時は良いかもしれないが、平日の午後という時間帯だからこそ日常の姿が表れる。「リビングルーム」と形容するには少し無理があるように思われた。

「ポートランドのリビングルーム」と呼ばれる広場。平日の午後訪ねたせいもあるかもしれないが、その評価に対して違和感を持った。

ドイツの市街中心地は「重心」だ


筆者はドイツの都市発展をテーマに取材・調査・参与観察を行なってきたが、ドイツの都市は発祥地が「中心市街地」であり、歴史的建造物が残っている。

ここでは人々が知り合うきっかけがあり、デモや集会がよく行われ、買い物・飲食といった消費地でもある。平日でもそこそこ賑わいがあり、広場もこの中にある。すなわち中心市街地はドイツの都市の特徴を作る重要な公共空間で、それこそ「(都市)社会の居間」と呼ばれることもある。

中心市街地は自治体における絶対的中心地、「へそ」のような空間。自治体全体から見ると「都市の重心」なのだ。(参考記事:日本から見えにくいドイツの都市の常識とは何か/財団法人ハイライフ研究所寄稿記事)

ホームレスの存在は都市の現実。それにしてもポートランドではよく見かけた。歩道にはベンチが置かれているが、同時にホームレスのテントも並ぶ。またポートランド空港から公共交通を乗り継いで移動したが、小便臭かった。

アメリカの基本的な構造 – 人口密度・自動車・新自由主義


それに対して、北米の都市は「重心が軽い」と感じた。表現は異なるが、同様の印象は欧州の都市の専門家の多くが感じているようだ。

その理由はこうだ。
一般にドイツに比べてアメリカの人口密度は低い。その上、グリッド型の作り方がなされ、自動車移動が大前提だ。それゆえ欧州都市のような、落ち着きがあって、かつほどよい集積があるという「中心地」が生まれにくい構造が基本的にある。

さらに、新自由主義的な規制緩和の中で無秩序に市街地が外へ広がる現象「スプロール化」が進むのが「アメリカの都市」というわけだ。

こうしたアメリカの都市の傾向に対抗するため、ポートランドはオールドタウンを整備。自転車道や公共交通を充実させ、広場も作った。市民参加も盛んで、歴史を重視する姿勢もある。それでも筆者から見ると「都市の重心」が不十分に思えるのだ。「ほどよい集積」が生まれにくいアメリカの基本的な構造を払拭しきれないのだろう。

ただ筆者は今回、シカゴと、カナダの数カ所の都市を回っただけだ。アメリカの他の都市と比べると「都市の重心」が比較的しっかりしているのかもしれない。(了)

公共交通がしっかり整備されている。

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ドイツの地方都市は結晶性の高さが魅力だ


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。