
ドイツ・バイエルン州の小自治体ヘーヒシュタット(人口約1万4000人)で、新しい政治グループ「独立有権者共同体ヘーヒシュタット(UWGH/以降、独立有権者グループ)」が立ち上がっている。一見すると地方の小さなニュースだが、ドイツで社会刷新がどのように始まり、どう展開していくのかを示す興味深い動きである。1970年代の「若者」も同じように地方から動き、現在の都市の姿を形づくった歴史がある。
2025年12月11日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
1万4000人の自治体の新風グループ
筆者が住むエアランゲンの地元紙※によれば、この独立有権者グループは2026年の地方選挙への出馬を目指して結成された。有志市民の集まりであり政党ではないが、目的は「市政に新風を吹き込む」こと。人口1万4000人のヘーヒシュタットの未来のために、独立した立場から新しい刺激を与える狙いだ。
メンバーは様々な職業の市民で構成され、イデオロギー色は薄く、実践的な解決策や市民との距離の近さ、透明性のある地方政治を重視している。一見小さな動きに見えるが、これは今のドイツ社会に広がる大きな傾向の象徴にも見える。
※2025年2月7日付 Erlanger Nachrichten
1970年代の「やんちゃな革新若手集団」


筆者はこのニュースを見たとき、エアランゲン市で1970年代に「ラッセルバント・イノベーション(やんちゃな革新若手集団)」と呼ばれた政治家グループを思い起こした。
当時は「68年世代」※と呼ばれる革新ムーブメントが社会を揺さぶっていた。その流れの中で、30代の若い市長ディートマー・ハールヴェーク博士や、「文化大臣」に相当するヴォルフ・ペーター・シュネーツ氏らが登場し、地方政治に新しい時代を開いた。
エアランゲン市における、自転車道整備※※や今日まで続く文化フェスティバルなど、現在の都市の基盤を形づくった政策の多くが、彼らの新鮮なアイデアと行動力から生まれている。
「独立有権者グループ」と「やんちゃな革新若手集団」は、どちらも地方レベルから始まっている。この共通点は偶然ではなく、地方政治が革新の「土壌」として機能していることを示している。どちらの動きも、都市社会の停滞や課題に対する一種の「爆発」であり、「正しい秩序」を再構築しようとする試みに見える。
※68年世代:1960年代後半に西ドイツを中心に広がった学生運動・社会改革運動に関わった若者層を指す呼称。権威主義への反発、民主化の推進、教育改革、ジェンダーや文化の自由化などを掲げ、その後の政治・社会・文化に長期的な影響を与えた世代とされる。
※※エアランゲン市は1970年代から自転車道の整備を始めた。ドイツ国内でも先駆的な「自転車都市」の一つ
違いは“年齢構成”――「60年の経験がある30歳」
ただし大きな違いもある。1970年代は30代の若者が中心だったのに対し、「独立有権者グループ」はより年配の世代が中心だ。写真を見る限り若いメンバーもいるが、代表者のギュンター・ゲイヤー氏は58歳。これは今日の社会状況をよく反映している。
ドイツも日本と同様に高齢化が進んでいる。今日の60歳は、半世紀前の30歳に期待された身体的・精神的活力を持っていることが珍しくない。「60年の経験を持つ30歳」と表現してもよいだろう。革新性と経験値が組み合わさっている世代だ。

新しい刷新の主体としての「経験世代」
若手運動としては「最後の世代」など気候抗議の潮流もあるが、社会全体の支持を得るのに苦労している。一方、「60年の経験がある30歳」は、複雑化した現代の課題を解くうえで、経験と革新精神の両方を備えた存在になり得る。
また、50代半ば以降の世代は1970年代の革新ムーブメントを直接知っている。いま極右勢力が強まるドイツで、「右翼に反対するばあちゃんたち」が存在感を発揮しているが、彼女たちの中には30年前「原発に反対するお母さんたち」だった人がいる。
「独立有権者グループ」は小さな自治体の取り組みに見えるが、この「経験ある革新世代」が他の世代と組み合わさることで、やがて大きな流れになる可能性がある。地方の「都市の民主主義」は、一気に世界を変えるわけではないが、薬草のようにじわじわ効いてくるのだと思う。(了)
高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら)
ハールヴェーク市長は1970年代になぜ自転車道を作れたのか?

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら


