子犬ならではの特権で「小さなテディベアみたい!」とちやほやされているが、犬種誕生の経緯とドイツの都市性の相性の良さが目につく。

飼い犬「スポック」の顔を初めて見た時の印象は、「カールおじさんのメイクをした俳優の伊原剛志さんが生まれ変わった」という感じだった(ちょっと長いな)。犬種は「ユーラシア」、中型犬で毛も多い。今日のドイツでは、一般家庭で飼われる犬は都市生活の中で家族の一員として「使われる」存在だ。ユーラシアも例外ではない。


犬種ユーラシアがいつ、どのように作られたか


1960年代初頭、ドイツの学校教師、ユリウス・ヴィプフェルらは、「家族の一員」として共に生活するのにふさわしい冷静さと穏やかさを兼ね備えた理想の犬を作ろうとした。

その方法は「ヨーロッパ由来のウルフシュピッツ」と「アジア由来のチャウチャウ」、両者の交配だった。どちらも個性が強い犬種だが、異なるルーツを持つふたつを融合させることで、理想的なバランスを生み出そうとした。1972年には、さらに白いサモエド(同じくアジア由来)が加わり、1973年には国際畜犬連盟(FCI)から公式に犬種として認められた。

そんなユーラシアの特徴は、静かで控えめ、過剰に吠えることがほとんどない。また「スポーツカー」のように颯爽と走り回る猟犬とは対極的で、むしろゆったりと落ち着いている。飼い主に対して穏やかで忠実であり、見知らぬ他人にもフレンドリーだ。こうした気質はまさに現代のドイツの都市環境とよく合う。


ユーラシアは、いかに「都市社会」にフィットしているか


イメージがつきにくいかもしれないが、人口が少ない小自治体でも独特の「都市性」が浸透しているのがドイツだ。これは長い歴史が背景にあり、個人の生活リズムやプライバシーが重視される一方、公共空間は「みんなの空間」として強く共有されている。

よく言われるように、日本では公共空間利用に「迷惑をかけないようにしましょう」ということが強調される。ドイツにも似た社会的配慮があるが、その背景や感覚は異なる。それにしても、都市の喧騒に動じないユーラシアの性質は馴染みやすい。

また、ドイツの公共空間は、「みんな(が参加しているはず)の空間」だからこそ「見知らぬ他人と軽く交わる」社交的な意味合いが強い。対照的に日本の「迷惑をかけない」という価値観は「おとなしくしておくこと」という意味になりがちで、結果的に「他者とは気軽に交わらない傾向」になるのではないかな。日本からドイツを訪ねた旅行者が「見知らぬ人が簡単に声をかけてくることや、アイコンタクトをとる『敷居』が低い」という印象を述べることがあるのは、この文化差から来るものだ。

「スポック」を飼い始めて2週間、このドイツの都市性をより実感している。犬種の珍しさもあって「どういう種類?」と質問されることはしょっちゅう。子犬ならではの特権も加わって、「かわいい!」「小さなテディベアみたい!」と通りすがりの人たちにチヤホヤされ(?)、さらには「触ってもいいですか?」と人気者になっている。

ちなみに、犬種名の「ユーラシア(Eurasier)」は、犬種由来の欧州の「Eur」とアジアの「Asier」を組み合わせたものだ。その点でも、私の家族状況ともよく合っていると思う。(了)

【参考文献】 KZG Eurasier e.V., 「Eurasier – Information zum Ursprung und zur Zucht」 (PDF)


高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら
ドイツの都市のリアル


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら