ドイツの自治体で行われた反戦集会(エアランゲン市、撮影:高松平藏)

ウクライナ戦争に伴う、ドイツの自治体の動きや日本の報道を見ていると、ふと思い浮かぶことがある。それは「日本はどの程度『西側』なのか」という問いである。

2022年3月16日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


亡命することなく、動画を投稿するウクライナのゼレンスキー大統領は、EUや世界を味方につけた。大統領という覚悟がそうさせているのだろうが、コメディアンというキャリアを考えると、メディアの力とその使い方を熟知している点もあると思う。情報戦ではロシアに勝っている。

ところで、この戦争を「西側視点だけで見ていてはいけない」という意見が日本で時々聞かれる。私も賛成ではあるが、この意見には日本は「どの程度西側」なのかという問いが含んでいるようにも思われてならない。

「西側」といっても、アメリカと欧州ではまた違う。
しかし概ね、西側の価値観とは、人間の尊厳を中心に、意見の自由が保証されていることであり、デモクラシーを健全で活力のあるものにすることが大切という認識がある。つまり「西側」とは強い信念に基づいた「デモクラシークラブ」なのだ。

ドイツの自治体にも、同様のことが見いだせる。反戦運動や、ウクライナへの連帯、避難民への支援が行われているが、「わが町はデモクラシークラブのメンバーの一員」ということが大前提になっている。むしろ、自治体こそが「生きたデモクラシー」の現場であるし、そういう場所にしようと連邦政府も自治体も種々の「投資」を行っている。


デモクラシークラブから見た、ロシアとウクライナ


一方、ロシアで言論統制があるが、厳しくなればなるほど、意見の自由に対する権力の横暴として際立つ。これは「デモクラシークラブ」にとってみれば、如何ともし難いことといえる。

それから EU(西側)は、地政学的にもウクライナにデモクラシークラブに入ってほしかったし、彼の国もクラブに入ろうとしていた。それだけにウクライナの大統領の覚悟ある行動は、「デモクラシークラブの戦い」という意味合いにも見えるのだろう。

ひるがって繰り返すが、多様な視点で戦争を捉えることは大切である。
しかし「西側視点だけで見てはいけない」という意見が出てくる背景には、日本が実は「デモクラシークラブ」のメンバーになれていないから、あるいは「一応メンバー」だが、クラブの要をきちんと理解していないからという事情もあるように思えるのだ。

ちなみに、デモクラシーの質と深い関係がある「報道の自由度」ランキングでは、日本は179カ国中67位(2021年)である。日本はどの程度「西側」なのだろうか?(了)


著書紹介(詳しくはこちら

スポーツクラブは「デモクラシーの学校」と呼ばれている。その理由をたっぷり書きました。


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。