動画「逆転インタビュー 国定勇人が訊く、高松平藏のドイツから考える観光論」の要約

本記事は、Youtube版「インターローカルジャーナル」で配信した対談の要約。今回はゲストに国定勇人さん(衆議院議員/元新潟県三条市長)を迎えた。国定さんは観光政策に深く関わる国土交通大臣政務官でもある。高松平藏が提唱する「来たければ、来ても良い」という観光政策のコンセプトを、国定さんが高松にインタビューする形式で掘り下げていく。日本と欧州それぞれの観光の実態や課題を対話を通じて整理し、持続可能な観光のあり方を探る。
2025年7月28日 文・高松 平藏 (ドイツ在住ジャーナリスト)
日本の観光政策の現状と課題:「来たければ、来ても良い」の背景
まずは国土交通大臣政務官でもある国定さんの2024年の訪日外国人観光客数が3600万人を超え、政府は2030年に6000万人を目標としている現状を紹介。だが、観光客の集中は東京や京都など一部大都市圏に偏り、オーバーツーリズムによる環境破壊や住民生活への影響が深刻化している。一方で地方都市、とりわけ三条市のような地域では観光効果が十分に及んでいない。
私、高松からは、数の追求偏重ではなく、受け入れ可能な「キャパシティ」を設定し、その範囲内で質の高い観光を促すことが重要と述べた。地域には歴史・文化・地域経済・コミュニティなどの「地域資源」がある。地域資源が破壊されない程度に観光に転用する方針が必要だ。これが「来たければ、来ても良い」という言葉で表現できる。
欧州の観光開発の歴史と、現在のオーバーツーリズム
欧州では1970年代はマスツーリズムの開発が盛んだった。特に地中海沿岸のリゾート開発が急速に進み、夏季だけの過密、冬季の閑散という季節的偏重に加えて、環境破壊や地域社会との摩擦が問題となった。このような開発途上のマスツーリズムを通じて、欧州では観光と地域生活の間でバランスをとる試行錯誤が続いた。
その後欧州の観光はツーリストの訪問先は広がりを見せる。その一方、欧州でもオーバーツーリズムの問題を抱える都市がある。この一因は、新興国の観光客の増加に求められ、「セルフィ・ツーリズム(自撮り観光)」などがその背景。また、「ツーリスト文化」という観点からいうと新興国の人々はコンテンツを貪欲に消費し、購買意欲が高い傾向がある。欧州の長期滞在・文化的な体験重視とは異なる。

バルセロナとミュンヘンの比較から見る観光の「質」と「量」
欧州でもオーバーツーリズム対策には腐心していている。高松が参考として紹介したのが、ミュンヘン・バルセロナの比較だ。バルセロナはオーバーツーリズムの代表的な都市の一つだが、両都市の人口はほぼ160万人。また年間の観光客数も同規模である。
しかし面積はミュンヘンが約3倍あり、人口密度と観光客集中度の違いが顕著だ。また多くの博物館や文化施設による体験型観光が支持され、高付加価値のある観光と住民生活の共存が可能になっている。加えて経観光収益を積極的に追わなくても都市経済は安定している。
この比較では都市の空間的余裕や観光コンテンツの質が地域の持続可能性に直結することを示す。
モン・サン=ミシェル型とミュンヘン型の対比
観光客数の制限を実現している例として、フランスのモン・サン=ミシェル島の例を挙げた。島へのアクセスを離れた駐車場とシャトルバスに限定し、観光客数を物理的に管理している。
先にあげたミュンヘンを「都市ブランド型」とするならば、モン・サン=ミシェルの例は「制限型」と分類できるだろう。この2つは、「来たければ、来ても良い」という考え方を地域や都市の観光政策に適用する場合の運用モデルとしてヒントになる。

日本観光政策への示唆と今後の展望
対談を通じて明らかになったのは、観光客数を追いかける中央集権的政策から脱却し、地域資源に高負担をかけることなく、質の高い観光を計画的に推進する必要性だ。「中央集権(日本)」「地方分権(ドイツ)」という基本的な違いがあるにせよ、各地域で多くの市民が参加し、地域資源の適正な観光転用と価値化の仕組みを作り上げていくことは重要だ。
また、「バルセロナ・ミュンヘン」の比較例は「日本・ドイツ」の比較にも大きなヒントになる。両国は面積と観光客の訪問者数は同程度。しかし、日本の方が人口密度は高く、森林率もかなり高い。都市の集中度を鑑みれば、観光キャパシティの現実的設定が第一歩であり、その上でターゲット層の設定や高付加価値・体験型観光の推進が重要になる。これは三条市や新潟のような、これから観光開発を進める地域でも独自に取り入れられる可能性がある。
「来たければ、来ても良い」という姿勢は、量的拡大に偏りがちな観光政策に対する批判的な視点であり、地域独自の価値を生かす新しい観光の指針となりうる。
本稿は、私、高松平藏がYoutube版「インターローカルジャーナル」で配信した内容を基に執筆した。ぜひ動画の方も閲覧していただきたい。(了)
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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら