自律した地方からの視点

都市経済史×マクロ指標×実体経済 この3つで見ると、ドイツ経済は違って見える。

コロナ収束後はサプライチェーンの混乱、ウクライナ戦争、トランプ関税など外的要因が重なり、ドイツ経済は低迷している。最新の経済指標では底を打ち、わずかに上向きだ。だが、競争力の低下や企業倒産、失業率の観点から見れば、実体経済はまだまだ弱い。

一方で、都市経済史の視点に立つと、少し違った風景が見えてくる。
都市レベルでの教育・研究・インフラ・制度への「累積的投資」は、新しい産業を生む土壌となる。長い時間をかけて積み重ねられたこれらの投資は、言い換えれば都市発展のための「知識資本」である。歴史・制度に裏打ちされた都市の自律性があってこその動きだ。目先の経済振興だけを切り取っても、この動きはほとんど理解できない。

数年前から私が住むエアランゲン市(人口12万人)も含むニュルンベルク地域では、産官学が結びつき、内燃機関依存からデジタル・医療・エネルギー関連への転換を進めている。ドイツの都市は、この「やり直せる力」を発揮しているように見える。

昨夜、エアランゲン市の経済関係の集まりに参加したところ、スタートアップが小さなブースを出し、若い経営者たちの雰囲気も決して悲観的ではなかった。この印象は、都市経済史の観点とも一致する。

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付け加えるなら、こうした都市の「やり直せる力」は、短期的な成果を求める政策とは相性が悪い点にも注意が必要だ。知識資本は即効薬ではなく、失敗や試行錯誤を内包した長期投資である。そのため、景気対策や補助金の効果測定だけでは、都市の本当の競争力は測れない。エアランゲンで感じたのは、好況感ではなく、「次を作ろうとする余力」がまだ残っているという事実だった。

ただし、開発できる技術は非常に高度である一方、高度すぎるゆえ市場に接続しにくい課題もある。いわゆる「オーバーエンジニアリング」である。現場の経済関係者からもその懸念を聞いた。エアランゲンは学術都市でもあり、技術系・医療分野のビジネスインキュベーターもあるが、従来の都市経済史パターンの中での新たな課題として浮かび上がっている。(了)


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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら