飼い犬と列車で移動。公共交通はじめ、「犬同伴」のインフラに相当するものが思った以上に整備されていると感じた。

先日、知人との会食のために犬の「スポック」を連れて隣町ニュルンベルクへ出かけた。こまでクルマによる日帰り2時間半の小旅行や一泊旅行はすでに経験済みだが、公共交通機関デビューは今回が初めてだった。

これまでも「犬同伴」のためのインフラに相当するものが、思った以上に整備されていると感じた。というのもホテルやレストランも同伴が可能なところも多い。また多くの都市の中心市街地などは「歩行者ゾーン」になっているが、結果的にこれも犬を連れて歩きやすい。

公共交通にしても同様だ。犬は子供料金が必要だが、小型犬なら無料輸送も可能。日本の列車との比較でいえば、自転車や大型ベビーカーも乗せられる車両もある。そのため、「空間が狭い」という圧迫感はない。そもそも鉄道車両のレール幅が日本の在来線よりも広いという物理的な事情もある。新幹線と同じレール幅なのだ。

それから、出かけたのが混雑の少ない日曜の午前中で、それほど混雑していないということも付言しておかねばならない。それもあって、ストレスはあまりなかった。あえて言えば、ドイツの列車は遅延が常態だ。見事にお目当ての列車は遅れていた。


犬を連れて歩きやすい理由


なぜここまで犬の移動環境が整っているのか。背景には19世紀以降の都市の発展と、家族・社会構造の変化がある。工業化と都市化が進み、家族単位の住居やライフスタイルが拡大。「室内飼育犬=新たな家族の一員」への意識転換が、公共空間のあり方も少しずつ変えていった。こうした変化を経て、犬は単なる飼育される生き物から「社会の一部」へと変化した。

そもそも都市の成り立ちやイメージなどが日本とかなり異なる。だから想像はつきにくいかもしれないが、カギになるのが「公共空間」としての都市のあり方だ。犬と都市の関係は中世都市から辿って行っても、なかなか興味深い。また今日の様子に直接つながる第二次世界大戦後の変化も見るべきなのだが、これはまたの機会に譲る。

さて、ニュルンベルク駅では、急ぎ足の中年女性が「ユーラシア(犬種)よね。写真撮らせて」と声をかけてきたり、「まだ子供?もう大人?」「まだ赤ん坊だよー」といった特急質問・回答が交わされたりと、なかなか忙しかった。これも「公共空間としての都市社会における個人の振る舞い」という点から合点のいくことばかりなのだが、スポックは目立つ存在だ。

9年間飼っていたオス猫が今年5月に亡くなったのだが、彼はほぼ家の中だけで人生ならぬ猫生を全うした。それに対して新参者のスポックはすでに列車やバス、駅や街のざわめき、他人との出会いを経験している。そういう点でも犬は社会的なペットと言えるだろう。(了)


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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら