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宮本:理念先行型ということですね。15分シティもそうですし、気候変動に対してどう取り組んでいくのか、インクルーシブな公共交通手段をどうして行くのかと、理念ありきで進んでいると感じます。

高松:理念先行というのはドイツでも感じますね。市議会の議員さんや政党によっては、ものすごく極端な意見を言う人たちがいらっしゃいます。理念とか原則に対して教条的で、日本社会の感覚で言えば「無茶言うなよ」と思えるほど極端です。しかし、俯瞰すると、これは理念を鋭くし洗練させていく役割を果たしており、これが少しずつ社会のダイナミズムにつながっているように思いますね。

宮本:日本の場合は、理念があっても、例えば一つの政策を進めるとき、10個の課題があるとすると、実現するためにすべての課題をクリアしなければならない。反対側の意見の人からすると、一つでもクリアできない課題があれば良い。進めるのは大変だけど、止めるのは簡単です。自転車道普及の政策で例えるならば、「クルマのドライバーが迷惑するんじゃないか」という視点が入るだけで、進められなくなる。

高松:日本社会は「できない理由」を探すことに、長けているわけですね。

宮本:そうですね。(苦笑)

高松:ドイツの自治体もね、市長が首相だとすると、環境大臣とか文化大臣、法務大臣なんかに相当する政治任用のポストがある。法的には「内閣」じゃないんですけども、内閣意識がけっこう強い。そして政治と行政の役割をシンプルに整理をするならば、戦略部門と戦術部門です。政治が戦略を立てね、その実装に行政が突き進む。そういう構造がクリアに分かれているので、ある程度理念を保持しながら、突き進む印象があります。

宮本:なるほど、そういう部分もあるでしょうね。フランスの自治体は、日本でいう議院内閣制です。先ほどの自転車の話で言えば、もし「クルマのドライバーが迷惑する」と言う一つの課題が理由で公約が実現できないと、次の選挙で当然負けるわけです。事前に公約はしっかり考えられていると思いますが、とにかく与党になったら、ちゃんと公約を実現しなければならない。そういう責務が発生しているのだと思います。


フランスの小自治体で見たデモクラシーの原点


高松:フランスの小自治体の市議会の様子をご覧になったそうですね。

「兼業を認めると、政治に多様な意見が反映される」と述べる宮本和宏さん(右)。左はジャーナリストで当サイト運営者の高松平藏。

宮本:はい。ベルサイユの郊外のサン・ドニ・メスニル(Saint Denis Mesnil)と言う人口7000人のコミューン(自治体)の議会を訪ねました。平日の夜7時半から2時間半もの間、市民の方が25人出席され、終わるまで誰一人立たず誰とり一人眠らずに、議論をしっかり聞いていました。行政側もモニターで資料を見せて、分かりやすくきちんと説明している。そして議員と市長等が非常に熱い議論をやっていました。

高松:そうですか。

宮本:議論した後に採決をとって進んで行くという形ですけれども、議案の内容や意見の対立をしっかり市民に「見える化」を図りながら、市議会が営まれている様子に大変驚きました。民主主義の原点はここなんだなって感じたところです。

高松:ドイツの市議会も、平日の夜に開催です。日本ではそれが難しそうですね。

宮本:そう言う時間帯での開催って日本ではなかなかない上、市民の方もそんなにたくさん傍聴に来ないです。また、日本の場合、議案自体抽象的なものが多く、傍聴していても、眠くなったりするんじゃないかなと思いますね。


兼業を進めると、政治に挑戦する人が増える


宮本:それから、市長は常勤で報酬をもらっていますが、市議の皆さんは無給です。議会の日当は貰えるようですが、無給でありながらの自分のコミューンのために激しい議論してるのがすごく印象的でした。

高松:ドイツの市議も同じですね。また基礎自治体の全首長の6割程度が無報酬、「ボランティア市長」さんです。

宮本:フランスでは議員の兼業が認められてるので、昼は仕事をして、夜は市議会の議員の立場で参加してるという形ですね。

高松:ドイツもそうですね。

宮本:アメリカも小さな自治体はそうみたいですし、議員を兼業でできるのは、すごく良いなと思いますね。議員はあくまで奉仕としてやっている。またコミューンの市長が国会議員を兼ねるという事もあるそうです。

高松:市長と国会議員を兼ねるというのは初めて聞きました。おもしろいですね。

宮本:日本では、国会議員は国会議員だけ、市長は市長だけです。しかし兼ねていくことによって、さまざまな意見が吸い上げられる仕組みになって、多様な意見を反映できるので良い制度だ思います。

高松:ドイツは兼業OKです。もちろん、働いている会社のライバル会社の仕事を兼業するとかね、そういうのは問題です。でも、社員の兼業を経営者が禁じることは基本的にできません。

宮本:日本の会社は、メンバーシップ型の勤務形態なので、そこに席を置きながらほかの立場を持つというところに違和感があるのでしょう。

高松:終身雇用制の時代なら、かろうじて理解できるところもありますが、今日、ちょっとナンセンスじゃないかなと思う。

宮本:そういったところも本当に変わらなければならない一つですね。政治では議員の兼業を認めたらいいと思います。それにより、政治屋ではなくて、政治家として世の中を変えていくことにもつながると思います。若い人も挑戦できます。それによって多様な意見を取り入れることができる。日本国憲法上、議員の兼業が否定されるわけではありませんから、法律改正をして、それを認めていくことで時代に合った制度が作れるんじゃないかなと思いますね。

(次回 なるほど、これが「ボランティア」が成り立つ欧州の背景 につづく

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ドイツの地方都市の質はどのようにして作られているのか?
エアランゲン市をくまなく取材し、書いています。