スクールドッグの存在は教育に関する考え方が基本的に変化したことを表している。

地方紙※の報道によると、ニュルンベルク市のいくつかの学校で「スクールドッグ」が導入されている。スクールドッグとは、学校に連れてこられる犬のことで、ペットというよりも、子供たちの学習と精神的なケアをサポートする存在だ。たとえば、授業中の緊張をほぐしたり、ストレスを和らげたり、不安を抱えた子供に安らぎを与えたりする役割を果たしている。

記事では、10歳のラブラドール・レトリバー「ナラ」や、4歳のミックス犬「テッシー」など、個性豊かなスクールドッグたちが紹介されている。どの犬も、ただ教室にいるだけで児童・生徒の笑顔が増え、教室の雰囲気が和やかになるという。

ほとんどの場合、教師が飼っている犬で、いわば教室における「教師のパートナー」といったところだろう。バイエルン州では、スクールドッグ導入に法的枠組みはないが、各学校の校長が責任を負い承認を行う。スクールドッグは教育目的で訓練された犬で、担当教員も専門的な研修を受ける必要がある。


社会の基本的な価値観の変化を象徴


スクールドッグは1990年代最後半に登場し、2000年代半ばから増え出した。これはドイツ社会の基本的な価値観の変化を象徴していると思う。

20世紀後半まで学校教育は父権的で権威主義的だった。1970年代にその傾向への反発が起こり、時間をかけて教育観は変化していったが、その影響が教室に浸透するまでにはさらに数十年を要した。こうした考え方の変化に伴い、堅苦しい教育は見直され、リラックスした雰囲気でこそ学習効果が高まるという発想が広がっていった。その延長線上にスクールドッグの普及がある。ドイツの学校も問題は多数あるものの、価値観の変化への対応がここに見出せる。

個人的にも「犬の効用」は私も実感することがある。とりわけ飼い犬の「スポック」を連れてレストランなどで食事をしている時だ。テーブルの下で大人しくしているのだが、店員さんにもウケがいい。近くのテーブルのお客さんたちもスポックを見つけた途端、空気が和む。

また幼稚園の園長を長年務めている友人も10年ほど前からプライベートな理由で犬を飼い始めた。仕事中、家に犬を置いておくわけにはいかないこともあり、幼稚園へ同伴出勤。園内では人気者だ。(了)

※ Erlanger Nachrichten.”Mitschüler auf vier Pfoten(四つ足のクラスメート)” 8. 11. 2025


著書紹介(詳しくはこちら


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら