概要

現代日本では、個人や組織の知識や思考の質を高めることが求められる一方で、社会全体の公共知を拡大する視点は十分に浸透していない。この3回シリーズでは、ドイツでの経験や思考法を手がかりに、個人・組織・社会の三層における問いのあり方を整理する。

  • 第1回:問いの仕方が議論の深さを決めることを示し、個人修練やプロジェクト運営で用いられる思考技法を紹介。
  • 第2回:個人やプロジェクトで有効な思考法を社会全体の公共知にまで広げるための課題と、日本社会が苦手とする「啓蒙思想的永久思考」の背景を整理。
  • 第3回:個人や組織のレベルを超え、制度や国家レベルで問いの質を考える必要性を提示。

シリーズを通じ、問いの質が議論の質を左右し、社会の複雑性に対応する力の基礎になることを示す。公共知を深めることは、個人の修練や組織の経験を超え、社会全体の判断力と創造性を高める鍵である。


各回の紹介

第1回 上:「問い」と「議論」には深い関係がある

問いの仕方ひとつで議論の深さは変わる。個人やプロジェクトで用いられる思考法、武道的思考や壁打ち思考の特徴と限界を整理する。また、欧州の啓蒙思想に由来する「永久思考」と比較し、個人の思考を公共知に結びつける方法を考察。問いを重ね、定義や前提を問い直すことで、誰もが確かめられる知識の土台を作る。これは公共知を生み出す基礎的手法である。(公開日 2025年12月1日)

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第2回 中:思考の射程と、日本社会の弱点

個人や組織の思考法は、社会全体の公共知にまで届きにくい。日本社会は武道的思考や壁打ち思考を持つ一方、公共知を支える啓蒙思想的永久思考の射程が弱い。歴史的背景として、論争文化が十分に育たなかった近代国家形成の経緯や、個人の内面修練と技能・経験の一体化による批判の抑制を指摘。こうした制約は、社会的判断や公共的議論を深化させる力の不足に直結しており、現代における公共知拡大の必要性を浮き彫りにする。(公開日 2025年12月2日)

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第3回 下:個人や組織のレベルを超えた「問いの質」という課題

社会全体の公共知を高めるためには、問いの質を制度や国家レベルで扱う視点が不可欠である。近代国家の概念を手がかりに、個人・組織の思考を社会全体に拡張する方法を提示。問いの浅さは社会の輪郭を痩せさせ、問いの深さは公共的議論と知の深化につながる。AI時代においても、問いはアウトプットの質を決める重要な基盤である。公共知拡大を制度的に位置づけることが、現代日本に求められる課題である。(公開日 2025年12月3日)

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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら