
この言葉を思いついた1990年代の終わりごろ、グローバリゼーションが現実世界になっていく時代で、地域社会が持つ固有の力や知恵が、国境や国家の枠を超えて結びつく可能性があると思えた。このサイトの説明として、「インターローカル」および「インターローカルジャーナリズム」とは何かを整理しておく。
ジャーナリスト 高松平藏(当サイト運営者)
インターローカルという発想の誕生
1998年の夏、ある対談の席でふと「インターローカル」という言葉が頭に浮かんだ。翌年にはinterlocal.orgのドメインを取得し、以来この概念を軸に思考を深めてきた。
「インターローカル」とは、辞書的には「国境とは関係のない地域間の関係性」と定義できる。JETROの「ローカル・トゥ・ローカル」や近年語られる「グローカル」とも通じるが、私の着想は、地域同士が水平につながり、互いの知を響き合わせることに重きを置く点にある。
この言葉を繰り返し口にしてきたことで、共鳴してくれる人々や、著作物で引用してくれる方も現れた。インターローカルという発想の背景には、グローバル化の進展とともに、むしろ拠点地域の重要性が再認識されるという逆説がある。
インターローカルは「ローカルの質」を考える
「インターローカル」とは、(1)国境を越えた地域間の関係性 (2)隣接する自治体同士の関係性と定義したい。
(2)においては図書館や劇場を複数自治体で共同運営するような、日常的な連携もまたインターローカルの一形態だ。またドイツでは、経済や政治の合理性に基づき、近隣都市が戦略的に連携する例も見られる。
この関係性の基本は、上下ではなく水平的な結びつきにある。そして重要なのは、ローカルの本質が規模や効率だけで測れないことだ。たとえば、地域の文化活動の多様さや、住民がまちづくりにどう関わるか、環境への配慮、歴史的な景観の保全といった「質」が問われる。必要に応じて水平な連携を通じ、全体の質を高めていくことが本質だ。
ローカルの「質」を考えるには、歴史や文化、制度、価値観など多様な側面を見る必要がある。例えば「都市の文法」とは、道路や広場の配置、公共空間の使われ方といった都市の“言語”を指す。さらに「見えない構造」は、表には現れない住民同士の助け合いのネットワークや、暗黙のルールなどを意味する。「知の枠組み」は、地域をどう理解し、どんな視点で語るかという“ものの見方”だ。
インターローカルな視点は、表層的な事例の模倣ではなく、制度や社会契約、文化的背景にまで踏み込むことを促す。都市は生きた有機体であり、変化と再生を繰り返す。その動態を捉え、知の枠組みを問い直すことが、現代の地域社会を深く理解する鍵となる。
インターローカル・ジャーナリズムとは何か
当サイト「インターローカルジャーナル」は、こうした複雑で多層的な地域間関係を、整理し、かつ批評的に可視化する実践の場だ。
センセーショナルな事件や一過性の話題に流されることなく、各地の「常態」に目を凝らす。その土地の制度や歴史、価値観、風土に根ざした現象を丁寧に掘り下げ、単なる事例紹介に終わらせない。「あなたの街はどうしてる?」──この問いかけが、インターローカル・ジャーナリズムの核心である。他地域の実践を知ることで、自分たちの地域社会を再考し、対話を深める契機となる。
また、こういう考えのもと、始めたのが研修プログラム「インターローカルスクール」だ。インターローカルジャーナリズムのひとつの展開だと位置づけている。(2025年5月16日 更新)