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西村:これまでカリフォルニアには何度も「旅行」はしているのですが、「住む」というのはまったく異質でしたね。生活していたところでは、「野菜いっぱいあるからとりにおいで」「ここちょっと手伝ってよ」というような輪の中に短いながら入れてもらってね、そういう顔の見える範囲で助けあったり、融通し合ったりという関係性はありがたかった。

高松:いいですね。

西村:社会の中で厳密な仕組みになっているわけじゃないけど、自然とそういうことがごく日常にあるというのをすごく実感した。ワイン作りを手伝いにいったりとかね。妻は味噌の仕込みや梅干しを漬ける手伝いにいったりしていました。

高松:なかなか牧歌的ですね。

西村:でもね、そんなのんびりした一方でいやおうなしに巻き込まれるのが、シリコンバレー周辺のITバブル。ひしひしと感じるのは家賃の上昇。私たちも家賃の高さにはまいった。低所得者や学生は暮らしにくく、ホームレスの人も目立ちました。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校(西村さん提供)


高松:それは大変そうです。

西村:家賃が払えなくなって、アパートを出ると、まずは車やテントでの生活でしょ。そこから仕事もあぶれて本当にホームレスになっていく。そういう人たちを横目で見なくちゃいけない。一方で、IT系の仕事で高い給与をもらって、大きな家に住む人もいるわけです。

高松:それはつらいですね。サンタクルーズで日本の方と会うことはありましたか?

西村:それが、サンタクルーズに住む日本人はほんとに少数なんです。一山越えてシリコンバレーのほうへ行くと、日本企業の駐在の人がいる。それこそ、家族で赴任してきていて、日系のスーパーまである。

高松:サンタクルーズではほとんど見かけない?

西村:そうですね。街を歩いていてばったり日本人と会うなんてことはなかったです。その分、知り合い同士の関係性が深い。人づてに紹介してもらっていくような世界です。それで、家に招待していただいて食事を一緒にしたり、バーベキューしたり。

高松:濃密ですね。

西村:これは私たちや日本人だけというわけじゃなくて、家族ごとや人種ごとの結びつきがすごく強い。例えば「メキシコ人」「タイ人」なども同じで、それぞれ独立したユニットになっている、そういうコミュニティかなと思う。


難しい、外国の「社会の肌触り」の言語化


高松:行政的にはどうですか? 都市問題やまちづくりなどに関心のある人にとってよく知られている街、ポートランドへも行かれましたね。

西村:はい。ポートランドではレクチャーを受けてシティガバメントの仕組みがわかってきた。アソシエーション(共同体)なんです。共同体として自治体が作られていると。これはサンタクルーズでも同様です。

高松:なるほど。

西村:10万人ぐらいの都市でもそう。6名という少人数の市会議員が選挙で選ばれるんだけど、それぞれシティオフィサーの役割もあって、それぞれが水道局長だったり、警察を束ねる人だったり、産業局長だったり、市政全部を動かしている。

高松:コンパクトです。

西村:驚くこともありました。日本なら、市町村の地理的な区分と役所の行政範囲は当然のように一致するでしょ。アメリカではそれが一致しないことがある。

高松:なかなかピンときませんね。

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