-the ART journal-

 

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1999−06−17

 


メキシコ人舞踏家のニュルンベルグ公演

 前衛舞踊、「クチコミ」で集客増

【エアランゲン=6月17日】このほど、ドイツ南部のニュルンベルグ市でメキシコ人舞踏家の前衛舞踊公演が行われた。制作を手掛けたベア・マッターストックさん(ニュルンベルグ市)によると、約1年前に行われた公演に比べ、集客数は約3倍に増加。その原因は、「クチコミ」によるものという

同市のタッフェル劇場で3月28日に行われた公演は、日本のオリジナル芸術といわれる前衛舞踊「舞踏」。しかもメキシコ人の舞踏家、ディエゴ・ピニョンさんによって行われたものだ。同ホールでの公演は今回で2度目。

この日の来客数は約230人。ここ数年、同市とその近隣都市ではモダンダンスなどの舞踊に人気が出てきているものの、前衛的で日本にルーツを持つ「舞踏公演としてはかなり数は多い」(マッターストックさん)。観客動員数は約1年前に行った公演の3倍以上にのぼるという。公演以降に行われたワークショップでは、舞台を見て興味を持った人が参加するなど、作品そのものにもインパクトがあった。

上演された作品は「DATSIBI」「TLASIUJKI」の2作品。ピニョンさんのソロだ。それぞれ、「殉教者」「預言者」という意味を持つ。前半の作品は静謐にして耽美的な演出が施され、柔らかな肉体が舞台に舞った。一方、後半の作品はメキシコの伝説をモチーフに作られた。前半の作品とは対比的ともいえる演出で、メキシコの土俗性がにじみ出るような作品だ。対照的な作風を配した構成もよかった。

みずからも踊ることもあるベア・マッターストックさん。

 



DATSIBIから。「殉教者」の意味


TLASIUJKIから。メキシコの伝説がモチーフ。「預言者」を意味する。

ところで、集客数の増加の原因は、「前回の公演にきた客が客をひっぱてきた」(マッターストックさん)。加えて舞踏家ピニョンさんは数年前から、ニュルンベルグ地方で精力的にワークショップなどを展開。根強いファンを地道に獲得してきたという背景も見逃せない。

一方、公演が実現した裏にはタッフェ劇場の支援も大きい。ホールの使用料、広報、照明器具及び技術スタッフはホール側の負担とした。チケット収入の70%はピニョンさんへの配分とされた。

舞台芸術はチケット収入による制作費の回収が難しいといわれる。一方、アーティストが継続的な活動を続けることで集客数の増加につなげることも可能だ。その際必要なのが公演などを行うための資金調達だ。その点はベンチャー企業の育成にも似ている。

今回のケースは、作品の魅力もさることながら、ピニョンさんの地道な活動と同氏を支援する劇場の姿勢が効を奏したといえよう。ニュルンベルグにおける今後の公演活動は、タッフェル劇場の長期的視野にたったサポートがひとつのカギになりそうだ。


欧州に日本人舞踏家、多数
戸惑い見せるジャーナリストも
最近、欧州へ公演やワークショップを行う舞踏家が多い。3月にはオーストリアで山本萌さんがワークショップと公演を行った。今月16日から小島一郎(栗太郎)さん、27日からは桂勘さんの両氏がフランスへ。竹の内淳さんは秋からイギリス、フランス、ドイツを回る予定だ。以前からも「山海塾」(仏)、吉岡由美子さん(独)など欧州を拠点に活動していた舞踏家やグループはあったが、今なお、舞踏はヨーロッパの人を惹きつけるようだ。

1960年代に土方巽氏によって確立された舞踏は、日本人の体格に基づいたダンスという評価がある。しかしながら、昨今、体格や人種とに関わらず、あくまでも踊り手個人が持つ文化や体験を表現に昇華する手法として舞踏を捉える見方がある。

手法として捉えると、舞踏の普遍性を引き出すことも可能だ。しかしヨーロッパとの比較でいうと、近代的な文脈でいう「人間」が行う表現というむきのあるのがバレエやモダンダンスだ。それに対して、身体そのものに宿った個人の体験や文化、民俗性といった、西欧の「人間」観では括れない部分をも活かすのが舞踏だ。表現の出発点にある違いは大きい。

ところで、ピニョンさんの公演を見た「地元紙の記者は、『どう書いてよいかわからない』と困惑気味だった」(マッターストックさん)という。欧州における舞踏のインパクトの一因は、表現における基底の違いにあるが、反面、ニュルンベルグの記者の困惑にもつながるようだ。(了)

 

 

 

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